書籍
□アバラボネ
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「神は人を肋骨から造ったそうだ」
そういえば、昔、博識な誰かに教えてもらったことがあった。肋骨、それは、外界からの衝撃から内臓を保護する役割を果たしている。
それは人体にとってとても必要なものと言えるだろう。
よもやそれを使って人を作るなど、神は馬鹿な事をする、と肋角は思った。いや、神だからこそ、そのような無謀な事にもできるのだろうか。
「……」
肋角はいつもと変わらず、煙管を吸い、紫色の煙をくゆらせた。
「……管理長、また煙管に逃げているのですか?」
「災籐か」
いつの間にか管理長室に入ってきた色素の薄い副官を見やり、ため息を吐き出した。……紫色の煙と共に。
「……ところで」
災籐は大げさに煙を払う仕草をして、肋角の褐色の肌に手を這わせ、その先にある煙管へと白い指先を伸ばした。
「仕事は終わったの?」
「考えていた」
「考えるのは結構だけれど、終わったあとにしてくれないかな」
怒られるのは私なんだよ、と災籐は溜息をつく。自分も結構気まぐれな性格だとは自覚しているが、肋角も相当なものだ。肋角の煙管を取り上げ、吸い口を咥える。
その瞬間、舌が焼けた
「っ、ごほごほっ…」
「一気に吸うな、煙で舌が火傷するぞ」
それは早く言ってもらいたかった、と焼ける舌で唇を舐め、災籐は煙管を返した。勢いよく肺の方まで取り入れた為か息が苦しい。
「ごほっ、それで…、何を考えていたんだっけ?」
「……お前は以前言っていただろう?神は人を肋骨から造りだした、と。」
「……呆れた、そんなことを考えていたのかい?確かに言ったけれど…」
仕事をそっちのけにするほどの重大性を感じないな、と災籐は笑う。
「神はなぜ、人体で必要な肋骨で人を造った?神ほどの力であれば髪の毛1本でも人を造れそうなものだが…」
「それは肋角もよく知っていることだよ」
愛情
災籐の白い指先が、肋角の脇腹をなぞった。その脇腹の下には人体に必要な肋骨がある。この紅い目をした鬼は、その肋骨を使い部下を造り、名を与えた。
肋骨は内臓を支える大切な骨だ。脊髄生物には、絶対必要なモノ。いくら再生するもはいえ、それは無関心で与えられるものではない。
ソレを愛情と呼ばず、何と呼ぶ。
「私としては、もう貴方に体を傷つけて貰いたくはないのだけれど?」
災籐の体は、肋角に与えられた訳では無い。
それがどうも、悔しかった。それを知ってか知らずか、肋角は災籐の色素の薄い髪を撫でた。サラリとした手触りのそれは指の間からこぼれ落ちる
「子供に嫉妬か?」
「ええ、大人げないでしょう?」
「いいや、そこも愛おしい」
酷い人、貴方は嘘ばかりだ、と災籐は笑った。