書籍
□人の不幸は
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人間が一番好きで、甘くて、美味しいもの。
お調子者の黄色はソレは、お菓子だと言った。
真面目な青色はコレだ、と金平糖を指さした。
面倒くさがりな橙色は面倒くさそうに頭を掻いて寝た。
のんびりした青緑は分からない、とヘラリと笑った。
厳しい紫色は、黙って鍛錬を続けた。
聡い水色は、ソレはとても悲しいモノだと笑った。
そして、毒を持った深緑は躊躇いもなく言う。
人が大好きなのは、他人の不幸だと。
× × × ×
十人十色。
人には人の、自分には自分のそれぞれの色がある。
みんなちがってみんないい、なんてどこかの詩人が残しているが、果たしてそうだろうか。
皆違うからこそ、嫌なところしか見えない。皆違うからこそ、他人の痛みなど分からない、理解しようがない、完全に分かることなど、できやしない。
「あぁ、分かる」
そんなの、口先だけだ、貴方は私を理解してくれた事など、一度もないではないか。私はいつも、誰にも、何も望まれない。何でも出来る、それは何も出来ないということ、何一つ出来ない事だ。全てできる、一つにこだわらない、それはきっと何一つ出来ない事と同じだ。
「あぁ、わかった」
目の前の、威厳なる赤は頷く。まるで友人の悩みを聞くように、同情を帯びた眼差しを向けてきた。そういえば、同情はいらない、などと人はいうが、同情すら貰えなかった人間一体何を望めばいいのだろう。
同情でも、憎しみでも、なんでもいい。白は、赤の感情がなにか欲しかった。彼が無関心じゃなければ良かった。
「ねぇ、肋角。なにか楽しいことでもあったのかい?」
「なぜそう思うんだ」
書類の束を眺めながら、特務室の管理長は顔を上げた。その赤い目は、これが楽しそうに見えるか?≠ニ問いかけているようにも見える。そりゃそうか、なにせ周りには書類があり、その書類を持ってきたのはほかの誰でもない、災藤自身だ。まぁ、肋角を見ている限り、強いていえば楽しそうにも見えないのだが、どこか、気分が良さそうだった。
「なんだか気分が良さそうだったから」
「……気分、か。そうだな、今は悪くない」
ふっ、と彼は赤い目を細める。災籐は首をかしげ珍しい≠ニ思った。煙管を吸ってもいないのに気分がいいとは、なんだか変なものでも食べたんじゃないか、と不安になる。
「それはなぜ?」
怖かったので、一応災藤は聞いてみた。
「不幸そうなヤツの顔を見ていると、優越感に浸れるからな」
よく人間がいうだろ、他人の不幸は蜜の味だ、と。
訂正、やはり肋角は鬼だ。でも、別にいいと思った。災藤に向けられているその目が、視線が、例え非道でも、憎しみでも、同情でも。何でもいい。
無関心じゃなければ。