book
□3
1ページ/1ページ
「……え?」
「──へ?」
高等部入学初日、少し早めに学校に来た私はフラフラと敷地内を歩いていたのだが、なんとなくかつて志摩子さんとお弁当を食べたあの桜の木を思い出し、ふらりと立ち寄った。
満開まであと少し、そんな桜を時間まで愛でるつもりで眺めていたのだが、かつてのセクハラおやじこと佐藤聖さま、もとい白薔薇様が出現し、お互いに変な声を出して顔を見合せて固まってしまうという変な空間ができあがってしまった。
「──ごきげんよう。
桜、綺麗ですよね……思わず立ち止まって見てしまいました──失礼します」
なにより、私が知るかつての聖さまではない雰囲気になんとなく障りのない言葉を選びつつ、その場を後にするべく行動する。
これもまた以前の私ではできなかった行動なのだ、百面相も幾分マシにできたのだ。努力って大事だよね!
「待って、あなた新入生?」
「はい。中等部からの進学なのに変ですよね、なんとなく早く来てしまって敷地内を散策してたらこの桜と出会いました」
あはは、努力しても不意の出来事への対処は上手くなかったりして……これでも成長した方なのになぁ。
いや、でも聖さまの雰囲気にあてられたら、聞かれてもいないどうでもいいことも喋ってしまうよね、うん。
「ふーん。好きなの、桜?」
「……そう、ですね。嫌いじゃないですよ」
「そう」
「はい。それでは失礼します、えっと……?」
「なに?」
「……いえ、失礼しますね先輩」
この場から去ることにのみ神経を尖らせていたせいか、そんな挨拶をし足早に立ち去った私の背後──
「──そういうことか。でも、あの子……中等部からなのに知らないのか」
あの頃のようにきょとんとしつつ、聖さまは微かに笑っていた──この当時の聖さまを人伝にしか聞いていない私には知りようもないのだが、それはとても希少な表情で、どれだけ重大なことなのかやはり私は知らず、彼女に変化をあたえてしまったのだ。