盃入るは血餅と血清

□深紅の葡萄
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柔らかいものが水分を孕んで擦れる音がする。

一度遅れて、金属音。

不木の手の中にある二本のダガー…上司である太宰からの最初のプレゼント。不木はそれをまるで舞でも舞うかのように軽やかに振り、首を裂き太腿を断った。

空中を跳び回る不木の髪。その毛先は赤く濡れていた。


たった数分前のことであった。不木はまた上司の分の書類を片付けていた。勿論彼女にとってはそれは苦痛でも何でもないのである。

すると部屋の扉がノックされて、黒服の男が入ってきて不木に告げた。


「小酒井様、任務が入ったとのことですので、首領がお呼びになっています」
「任務?…私が?」
「はい。太宰様も首領室で待っておられます」
「…ふむ…分かった、直ぐに向かおう」


不木は書類を後回しにして首領室へと歩を進めた。
相変わらず絢爛な扉を開けると、太宰と首領、そして幼女エリスの姿があった。


「不木ちゃーん!来てくれたのだね!今日のドレスもよく似合って…」
「もうっ、リンタロウ!お仕事の為にフボクを呼んだのに、無駄話ばっかりして!」
「ご、ごめんようエリスちゃん、でもね…」
「まあ首領、それは後でも宜しいじゃないですか。本題に移りましょう?」


不木は太宰が何処と無くぴりぴりとした雰囲気を持っているのに気がついた。

いつもの温和さは薄れている。

はて何が、と思ううちに、鴎外が口を開いた。


「任務と言うのは、殲滅の依頼でね。この書類にあるところの組織を潰してもらいたいのだよ」


提示された紙一枚には、先程書類にもあった記憶のある小さなマフィアの名前だった。

「敵対組織」というやつだろう。不木は一通りを読み晒して鴎外に目を戻した。


「できるね?」
「勿論」


即答した不木に、鴎外は目を細めて微笑む。
一方の太宰はまだ不満げなままだ。


「…治、私が任務に行くの、嫌そうだね」
「当たり前だろう。可愛い私の不木が、私の元を離れるなんて」
「うふふ。けれどすぐ帰ってくるよ」


不満げながらも太宰は頷いた。そして、懐から包みを出した。

それを不木に差し出す。一体なんだと思いつつも不木はそれを受け取った。

ずしりと腕に伸し掛る重み。

そして、直感した。


「…武器か?」
「ご名答。名工に作らせた特注品の双剣だ。君の力は一々吸わなくてはならないだろう?だからそれで人を切って、刃に血を付けるのだ。それを舐めれば早いからね」
「成程」


包みを解くと、質の良さそうな鞘と柄が見えた。

引き抜いてみると、白銀。美しい刀身。素人目にもいい物だと分かる。


「有難う」
「いや。…気をつけて。怪我はなるべくしないでおくれよ」
「うん。行ってくるよ」

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