Main(長編/不器用な彼女シリーズ)

□卒業(後編)
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一松は、そっと私の手を取ると
そのまま壁に押し付ける、
体が近づいて、上から見下ろされる、

ぅわ、壁ドンされてる、というか普通に近くてドキドキする
見上げた角度でみる一松はかっこよくて
やっぱり好きだと思う。
もう一年以上も付き合って、体だって何度も繫げているのに、
いまだに、片思いのように胸が苦しくなる。

「一松が好きだよ」
そっとそう告げると、一松は答えるように

顔を近づけてそのまま唇を落とされる。
教室でした初めてのキスのように触れるようなキス。
そっと手を離されて、すこし心細くなる
私は、一松の背中にそっと手を回して抱きついて
顔を少し薄い胸板にこすり付ける。

「一松、どこにも行かないでね」


ふと思い返すと
『一松が好き、どこにも行かないで』
同じセリフを、一年4ヶ月前にも、ここで同じことを一松に告げたなと思い返す。

一松が何も答えてくれないので
抱きついたまま一松の顔を見上げる、

一松は寂しそうな不安そうな顔で私を見ている。
ふと、おそ松の言っていたことが頭をよぎった
『高校卒業したら一松と別れるの?』

共有していた高校生活というのは、今日卒業した。
これからは大人と言うにはまだ幼すぎるけど、
もう子供では無くなるのだ。
進路も違い、それぞれの道を行くことになるだろう。
私は、生活や勉強することや求めることが違ってもずっと一緒にいれると当然のように思っていたけれど、
そう簡単なことではないのかもしれない。一松はそういう事を考えているのだろうか?


「一松、何か言ってよ・・・」
そっと一松の頬に触れる。

「莉乃が、これからどこかへ行きたくなったら、俺は止めないから、
好きなように生きて欲しい」

私はビクっと震える
「何それ?私はどこへも行かない。一松の傍にいたいの」
震えながらそれだけ伝える。なにこれ別れ話をされているのだろうか。

「莉乃、世界はお前が思ってるより広いんだ、いろんな奴もいる。いろんな場所がある
沢山出会って、気持ちが変わることもあると思う。
そうなった時に束縛したくないんだ」

私は一松を見る、馬鹿だなって思う
馬鹿で卑屈で自信がなくてでも自分勝手
そしていつでも私を思ってくれて、優しい人。

「わかった、私は世界を見るよ。大学行ってたくさん勉強する
でも傍にいて。たくさん世界を見ていろんな人と知り合って、
それでも一松が好きなままだったら、
その時は・・・・」

言葉に詰まると
一松が私の頭をまた引き寄せて

「その時は、ちゃんとプロポーズするよ」
ボソッと一松が言う。

私は嬉しくてびっくりして少し涙が出た、
でもそれを悟られないように

「ニートになるくせに」
憎まれ口を叩くと

「まあ、とりあえずはね、なんか疲れたんだ少し休んでから色々考えたいんだ
クズでごめんな」

「ううん、なんかそういうの分かる」
高校卒業したからってすぐに道を決められる人のほうが少ないと思う、
でもとりあえず決めている人のほうが多い中
自分の気持ちと向き合おうとしているのが
一松らしくて、好きだと思った。

まあ、ほかの兄弟も全員進路が決まってないのでどうなるかはわからないが・・・。

「一松、その時は・・待ってるから」


二人とも安心した顔で、もう一度今度はゆっくりと時間をかけたキスをした。
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