短篇

□好きって言わない。
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もう、彼氏の一松と三ヶ月もあっていない。

付き合い始めてからもう2年。特に約束したわけでは無いけれど、
週末は私の一人暮らしの部屋で過ごし、
大きな変化やケンカは無くても、仲良く付き合ってきたつもりだった。

このまま、自然消滅を狙っているのだろうか。

メールをすれば、「今日は行けない」とか
「忙しい」とか返事は来るから完全無視では無いようだ。

一松はニートだったけど、外食の時は必ず奢ってくれたし、私にお金を借りたことやたかったことは一度も無い。
だから、私も、彼が無職だということなど気にせずに付き合ってきたのだ。

極端に無口で人嫌いだけど、優しいし気が効くところもある。
知り合えば、好きになる女の子も少なくないと思う。

やっぱりもう、お別れなのかな・・・・。
とうすうす思っていた。
思えば、一松から、好きとか付き合おうとか言われたことはあっただろうか??

会社帰りにたまたま道で毎日すれ違っていて、
そのうちに猫の事やお互いの事を話す様になり。

真冬の雪の降る寒い日に、私が、小さい声で「好きです」と告げたら、
一松は戸惑ったようにしながらも、抱きしめてくれた。
何も言わなかったけど、「俺も好きだ」と言われたような気がした。それはやっぱり思い込みだったのだろうか。


もうすぐ、また冬がやってくる。
すっかり冷たくなった風のなか、帰り道を歩いていると、

一松に似た影があり、もしやと思って走りよると、

「あれ〜咲乃ちゃん、今帰り。相変わらずカワイイね〜」
と明るい声で話しかけられた。


「あ、えっとお兄さん?」と
私は多少ガッカリした声で答えた。
彼にソックリな兄弟は

「咲乃ちゃんもういい加減、一松以外も見分けてよ〜、六つ子長男おそ松です
もう、そんなにガッカリした顔しないでよ〜」

と明るい声で肩に腕をかけてくる。

私は、笑いながら、肩にまわされた腕を外しながら、
「ガッカリしてないですよ〜、」といいながら、一松の事を聞いてみようか、家族に近況を聞くのは恋愛のルール違反ではないかと
自分が葛藤したところで、

「ところで一松に言ってやってよ〜、たまには家にも居ろって、ぜんぜんパチンコにも付き合ってくれないんだよ〜」
と一瞬意味のわからない言葉をかけられた。

「えっ、一松家にもいないんですか?私も三ヶ月あってなくて・・」
と思わず本音を言ってしまった。

おそ松さんは、瞬時にまずいことを言ったと思ったのか
「あ・・ごめん、あいつがいないのは咲乃ちゃんとこ入り浸ってると思って・・
あ、ほら、あいつも何考えてるかわかんないとこあるじゃん!すぐに戻ってくるって」
「まあ、それに、戻ってこなかったら、俺と付き合えばいいじゃん!!そーしよそーしよ!!」

とまるで良い案を思いついたようにはしゃいで至近距離に移動してくる。

「はあ、遠慮します・・・」と私は若干ヒキ気味でその場を離れた。

それにしても、家にもあまり帰ってないなんて・・・。
やっぱり、一松は気まぐれな猫みたいに、
他に行ってしまったのだろう。


もう、忘れなきゃなと思い始めていた。

一松から会おうという連絡が入ったのは一週間後だった。

会うのも久しぶりなら、家ではなくて外で待ち合わせも久しぶりだった。

久しぶりにあう一松は、いつもよりちゃんとした格好をしていた。
薄い紫のシャツにジャケット、細身のパンツでたっていた。

「ひさしぶり」っていうと、
いつもの低い声で「ああ」と言った。

それからは、ちょっと遠出をして、食事をして
海浜公園まで出てきていた。

一松はいつもよりも口数が少ないように思う。
二年間つきあって、最後の思いで作ってくれたのかな。この場所で最後の言葉探しているのだろうか?
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