短篇

□少女マンガの男の子。
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こんにちは〜。と勝手知ったる
小さい頃から交流のある松野家に入っていった。

玄関では、幼馴染の一人の一松が女の子といて
これから出かけるようだ。

「あ、一松おはよう、これからデート?」とからかって声を掛けると、
本気で殺されそうな目で睨んできた。

「何」といつもの低い声で聞かれ、

「あ、母からおすそ分けです」と
紙袋に入った梨を見せたら、目がキラリと光り、

「他の奴らに、俺の分残すようにいっといて」
とボソボソしゃべって、彼女と出て行った。
やたらかわいい彼女は、私に一礼して一緒に出て行った。

家の中に入ると、
居間には、三男のチョロ松しかいなかった。

この松野家は、なんと六つ子の兄弟である。
家が近所で、一人っ子の私とも、
まるで姉のように妹のように一緒に遊んでくれて、
家族のように育ってきた。

チョロ松は、「おう」といいながら
いつのように求人雑誌やフォークリフトの使い方などの実用書を読んでいた。

兄弟の中ではなかなか真面目な方であるが、
これだけ熱心でありながら就職が決まらないあたりは他の兄弟ともさほど格差はないように思う。

「これ。母から、梨のおすそ分けです」と渡すと、
一松同様、目をキランと光らせ、「おお〜こんなに!ありがとう」よ喜んでいた。
なんでこの兄弟はこんなに梨が好きなんだろう・・・。


一個むいて食べようぜと、
チョロ松は台所へ持っていった。

「おまたせ〜」と、綺麗に剥いた梨と、
几帳面に二つのフォークが刺さっていた。

ありがとうといいながら、二人で梨を食べ始めた。

「他の兄弟は?」と訪ねると、

「トド松とおそ松兄さんは競馬に行ったよ、カラ松は釣堀、十四松は野球かな、一松は・・」

と言いかけたところで、

「一松、さっき会ったよ、これからデートでしょ?」
と言ったら、

チョロ松は、深いため息をついて、
「そうだよ」と言った。

「なに〜、まだ一松が彼女作った事から、立ち直ってないの??」と笑って訪ねると。

「まあそりゃあ、嬉しい気持ちが大きいけど、
ガールフレンドがたくさんいるトド松や、いつもナンパしているおそ松兄さんやカラ松とかじゃなくて、
なんで一松なのかなって先越された感はあるよ〜」
と、チョロ松にしては珍しく本音を言って来た。


「うーん。でもわかる気がする、少女マンガとかだとさ、
やっぱ、クラスの男子で暗くて、はみ出し者で、誰にも心開かないけど、
自分は心開いてくるアウトローな男子って、一番少女マンガの男の子には多いんじゃない?だから一松がモテるのわかる気がする」

と答えると、チョロ松は、妙に深く納得したみたいで、
「ああぁ!そうなのか、ふーん、初めての意見でスゲー納得した!咲乃はスゴイな!
なあ、なあ、他の奴らも考察してみてよ。」

と私の少女マンガに当てはめた考察が、かなり納得したみたいで、
もっと教えてと強請ってくる。
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