短篇

□一松の結婚前夜
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まだ、片付いてもいない部屋の窓から外を見る。

小さなマンション、窓の下には小さい川と、まだ咲いていない桜の木が見える。

小動物ならぺット可だし、もう少ししたら、窓から桜が見えるねと、この部屋に決めたときは、
咲乃は嬉しそうに笑っていた。

なのに今日は、その時とはうってかわって走り回っている。

電話を掛けたり、あちこちダンボールを開けたりしてたりしている。

そして、こっちを見たかと思うと

「一松!ゆっくりしてないで!
明日の挨拶文かんがえた?誓いの言葉も暗記しておいてっていったでしょう?

手を止めるんだったら、寝室のダンボール畳んでおいてよ!!」
と、今にも殴ってきそうな勢いで話し続ける。
俺は、諦めて、
あ〜ハイハイと言いながら、机に向かって、来賓への挨拶というのを考える。

結婚式だとか、挨拶だとか、自分にすごい向いてなくて自分でも笑えるが、
こんな面倒な事を乗り越えても、結婚をしようと決めたのは自分なのだと思いなおす。


咲乃は慌てているのも当たり前だ、
昨日が引越し、今日は朝からバタバタと入籍だけを済ませて、明日、結婚式と披露宴をする。

なのに、仕事仕事で準備が全然追いついていないのだ。

甘い気持ちに浸るのはまだまだ先になりそうだ。

俺の招待客は、5人の兄弟と、両親と、昔なじみのおでん屋のちいさい亭主だとか、一応アイドルのトトコちゃんくらいなので、焦りはないが、

咲乃はフリーランスの仕事をしているので、仕事関係の招待客のことで忙しいのだろう。


俺は、挨拶文一覧などの本を見ながら
適当に抜粋して文章を作っていく。
咲乃が少し手が空いたのか、
俺の目の前でお茶を入れてくれて、

「やっと、お茶っ葉が見つかったよ。

一松、進んでる?見せて見せて」と覗き込んでくる。

いや、まだだから!と咲乃の頭を押しやる。

「どういう事いうの?出会いとかプロポーズとかのエピソード入れると良いらしいよ。」

本を見ながら言ってくる。

「はあ、出会い?ふーん、じゃ、新婦の咲乃さんに高校の教室で性的暴力を振るわれたのが馴れ初めです。って言ってやろうか?」
皮肉っぽく咲乃に言うと、

顔を真っ赤にして

「性的暴力ってなに?普通に告白しただけでしょ!まあ、一松に、無理矢理キスはしたけどさぁ・・・」

「ほら、してんじゃん」とからかうと、

「もう、馬鹿な事言ってないで早く済ませちゃって。午後からは荷物も届くよ。」
 
咲乃が立ち上がろうとする荷を腕を掴んでまた座らせる。

「何?」と聞いてくるのを、キスして言葉を塞ぐ。
一度、唇を離して、
両手を首に回して、もう一度、深いキスする。

「一松?どうしたの?」と腕のなかでつぶやいている。

「あ〜、なんか思い出したら、エロい気分になった」
というと、咲乃は、焦って全力で俺の腕を抜け出して、

「ちょっ、変な事考えないでよ。今日は夕方までに全部ダンボール片付けるんだから」

俺はそんな気までは無かったけど、
真っ赤になって照れてる姿見てると、
なんだかムラムラしてきた。
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