短篇

□昔の約束を彼女は覚えているだろうか(後編)
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僕らは、そのまま電車に乗り続けた。

持っていたお金を見せ合って、すこし遠くの灯台のある町まで行こうと話し合った。

その町では、今日は大きな花火大会があるので
子供同士で逃げても見つからないだろうと
無い知恵を絞って考えた結果だ。

「うわ〜!みて!お店がいっぱい出てる!」
さっきまでの落ち込みはどこに行ったのか、
楽しそうに彼女は露天を見ている。

僕もお腹が減ったので、たこ焼きでも買おうと
ポケットに手を突っ込むと。

母さんがくれた買い物メモとお財布が出てきた。
僕が、買い物をして帰らなかったから、

みんなはゴハン食べれただろうか?十四松がまた泣いて一松を困らせてないだろうか?

ゴハン終わったら遊びに行くとはしゃいでいた
トド松とカラ松は焦れてないだろうか?

おそ松は僕の帰りをずっと待っているんじゃないだろうか?

財布を持って立ち止まった僕を、彼女は覗き込む
「チョロ松くん、やっぱり帰りなよ」と彼女が言い終わる前に、

「今川焼きと焼きそば買って海岸に出ようよ!」と大きな声を出して、彼女を引っ張る。

そうだ、僕は「かけおち」したんだから、つかまらないようにしなきゃいけないんだと

ちょっと使命感のようなものが出てきた。

海が見えると、やっぱりワクワクする。

彼女と並んで、買ってきたものを食べる。

今川焼きは二つ買って、彼女とひとつづつ食べる。

「すげえ、俺、今川焼き一個全部食べるの初めてだよ!」感動して言うと、彼女はクスクス笑う。

「そうなんだ、いつもみんなで分けるの?3個を6人でとか?」

「そうそう、3個で、上二人でひとつ、僕と一松でひとつ、下の十四松とトド松でひとつでわけるんだけどさ、

一松は、いつも大きいほうを僕にくれようとするんだけどさ、
僕だって一松のお兄ちゃんなんだから、一松に大きいほう食べて欲しくて
それで喧嘩になるんだよ!それを見ておそ松たちに馬鹿にされるしさあ・・・」

と思わず、つらつらと喋ってしまう。

彼女はアハハと笑いながら、ちょっと寂しそうな顔をした。

「ねえ、なんで?なんで家出してるの?

僕も、かけおちって言うのしてるんだから聞いていいんだよね?」

彼女は、「うん」と言って話し始めた。
「離婚」

「えっ?」僕は聞きなれない言葉に驚く。

「離婚するんだって、ママとパパ。

それはいいんだ、もともとパパぜんぜん家に帰ってこなかったから。

でも、リコンして、私はパパに引き取られるんだって。
そしたら、もうママと、弟が二人いるんだけど、もう弟とは一緒に暮らせないんだって。」

「なんで・・・なんで私だけ一緒に暮らせないの?弟と離れるのイヤだよう・・・ふぇ〜ん・・・」

彼女は、子供のように、と言っても僕たちは
実際に子供だけど、

彼女は、今日一日、大人っぽいワンピースを着て、計画を立てて、逃げて
計画なのか偶然なのかわからないけど、カケオチってものまで初めて、
ずっと頑張ってたんだな、泣きたいの我慢してたんだなって思った。
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