Main(長編/不器用な彼女シリーズ)

□(1.5)
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私には、両親がいなかった、
中学の時に事故で亡くなった。
親戚が名義を貸してくれて、アパートを借りてくれて、
一人暮らしをしながら高校へ通うことになっていた。

とにかく、学校でも親戚でも、もしも嫌われたり失敗したりしたら、逃げ道が無いことをがわかっていたので、

私が唯一身につけたのは、嫌われない処世術だった。

地味で大人しくしてても、簡単にイジメの対象になる。明るくて元気なキャラももちろんそうだ。

私が選んだのは、成績優秀、しっかりものの優等生で、いつも控えめで愛想笑いではない見破られないかわいい笑顔の女の子だ。
そういう立ち位置はそうそう嫌われない。

その位置を保つのは難儀だが、逃げ場も無く、
誰にも心を開きたくなかった私には、適度に誰にも関らなくて良いし、嫌われない充分なポジションだった。

誰にも、無理してるとか、心が無いとかも見破られない自信もあった。
「莉乃〜!お昼食べよ〜!」
明るい声で、友人たちが声を掛けてくれる。

私は、いつもの明るい笑顔で
「ゴメンね、委員会の準備があるから、今日は行かなきゃ!」
と断る。

本当は委員会なんて無いんだけど、昼休みくらい一人でいないと疲れきってしまう。

今日も、ぶらぶらパンを持って一人になれそうなところを探す。

あ、北口の昇降口に行ってみよう。
体育の時に、北口に走っていく猫をみた。もしかしたらいるかもしれない。
という淡い期待を抱いて、階段を下っていった。

到着すると、やはり、昇降口の日当たりの良い場所に、腰掛けられそうな段差があり、
日当たりの良い場所で、白い猫がいた、
人を見ても逃げないところを見ると、
餌付けされているか、飼い猫なのかもしれない。

私も、そのまま座り、お昼ご飯のパンを食べ始めた。
それにしても、学校と言うところは閉鎖的で疲れる。

女の子同士の、わけのわからない、牽制をしながら、褒めたり褒められたり、かわいいのかわいくないのだと、とりとめのないおしゃべりに、

男の子と付き合いも、仲良くすれば反感を買うし、距離を置いても意識してるとすぐ噂になる。
こんな閉鎖な社会で、自分を出そうとは思わない。上手く演技していけば良いだけだ。

それを自分に言い聞かせても、たまにこうして
疲れがぐっとつきよせる。

背中をぐっと伸ばして、一息ついて、
ぼうっとした。
一人で誰の目も無く表情を作らなくて良いこの時間が一番の安らぎだった。


そうしてたら、隣で寝ていた猫が、ニャアと鳴いて走っていった、

階段の影に誰かいる??
一瞬、ヤバイと思ったが、特に一人でいただけで、やばいことをしているわけではないのだ。

「誰?」と聞いてみた。

猫を抱きながら、のっそり出てきたのは、
学校では有名な六つ子の一人だった。

「松野・・・一松くん・・。」
と私は言った。

もちろん、そっくりな六つ子なんて見分けはつかないし、名前を全員言えるかと聞かれれば
怪しいものだったが、

この男子生徒、一松のことだけは
よく知っていた。知ったいたというか、
気になっていたというか、苦手と言うか
この男はいろんな感情を掻き立てる。

上手く表現できないのだが、眼が合うたびに、
自分の本当の姿を見抜かれているような気がして、恐かったのだ。

たぶん、気のせいだとわかっていても、
なんとなく、同じクラスでも故意に距離を置いてきた気がしている。
まあ、こちらから距離を置かなくても、

彼が誰かを仲良くしているところなんか見たことは無いのだが・・・。

一松が
「わかるんだ」とボソッと言った。

私は、あたりまえ・・と言い掛けた所を
「なんとなく・・・おそ松くんとチョロ松君は同じ委員だし・・」
と言い訳めいたことを言った。

「それに・・」と言いかけた所で、自分はいったい何を言おうとしているかところでハッと我に返り

「お昼ご飯?邪魔してゴメンね」といつもの完璧な笑顔で立ち去ろうとした。

これでいい、きっと気にしすぎだ。

通り抜ける瞬間に、動けなくなった、
下を見ると、腕をつかまれていた。

彼はいつもの通り、目を見ずに
「またここにきなよ」「個々では笑わないでいいから」
と言った。

私はその瞬間、血の気が引くというのを文字通り体感した。
どうして・・・どうしてわかったんだろう。
私が無理してること、笑っていること、
本当は誰も好きじゃなくて、誰にも心を許してない、私自身の心・・・。

否定しなければならない、
いつも通り、「何言ってるの?」笑ってやり過ごさなければならないと思いながらも、

出てきた言葉は
「どうして?」「どうしてわかったの?」
とすべてを認める言葉が出てきた。

私は返事を聞かずに、その場を去っていた、

私は、あの人が恐かった、その予感が当たっていたことがもっと恐かった。

教室に帰り、いつもどうり過ごしていたら、
昼休みが終わり、一松がのっそり入ってきた。

彼を見るを胸がざわつく。これはきっと、恐怖なのかもしれない。
それだけではない、安心感があることにも
私はもう気がついていた。

明日は行ってみるかどうかは、また明日考えよう。
 

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