Main(長編/不器用な彼女シリーズ)

□(2)
1ページ/3ページ

松野一松と会話を交わしたあの日から、一週間。

私は、北口の昇降口には、行かなかった。

正確には、行けなかった。だ。
連日、委員会の仕事が昼休みに入り押してしまい、
そのほかは、調理実習準備だの、地味に日直などで昼休みはつぶれてしまっていた。

私は、行くか行かないか悩む必要の無い安堵感も持ちながらも、
もしも、私を待ってるかもしれない、松野一松が気になったり、
勝手に逃げたと思われたかなと誤解を解きたい気持ちもあった。

口を利くチャンスもないまま、ただ日は過ぎていった。

朝、教室に入ると、
「莉乃ちゃん今日、放課後時間あるかな?」と声かけられて、私のその容姿に、かなりの動揺を見せてしまった。

落ち着いて確認してみると、同じ委員の松野チョロ松君だった。

一松君と、顔は同じでも、人のよさそうな笑顔、真面目そうな姿勢に、すこしホッとする。

「あ、うん、集計明日までだよね、また区立図書館で仕上げちゃおうか?」と返事した。
学校の図書館は私語厳禁なので、いつも学校近くの図書館で委員の集計はするのが定番だった。

動揺を隠せない私に不思議そうな顔ををしながら
「あ、驚かせてゴメンね、じゃあ、放課後よろしくね」
と笑顔でチョロ松君は去っていった。

何動揺してるんだろう。一松君が、こんな風に気軽に声なんてくるわけ無いのに。
と思った瞬間に、何で私は毎日あの人の事ばかり気にしてるんだろうと、かぶりを振った。

ただ、昇降口で2、3言話をしただけの人。

私を見抜いたことを、私をわかってるような言を言ったけど、
ただのいつもの皮肉だと思えば、それで気にすることは無い出来事なのに・・・・。


放課後になり、チョロ松くんと区立図書館に向かった。
見慣れた、図書館の前に来た特に、なんだか建物が薄暗いことに気がついた。

「あれ・・改築中で休館だ・・どうしよう」
とせっかく来たのにとガッカリした声を出してしまった。

委員の集計は明日までだし、制服でファーストフードやカフェの立ち入りは禁止されているし・・。
「しょうがないよ、私が預かって家でやってくるよ」と私はチョロ松君に言った。

チョロ松君は、少し考え込んでから、
「いや、資料とかも重いから、全部持たせられないよ。かといって、集計は莉乃ちゃんじゃないと解らない所もあるし・・」

と言って、
「良かったら、残りの集計のところだけでも、うちにきてやらない?そしたら明日までに終わると思うし」
と良いことを思いついたように笑顔で提案してくれた。

「えっ・・チョロ松くんの家に?」
って言うことは、あいつのいる家でもある・・。ととっさに考えて、
ええい!もう意識するなと忘れろ!と自分に言い聞かせ、

「あ、うん、それじゃお言葉に甘えてお邪魔します。早く終わらせなきゃだもんね」と言い訳するように返事した。
チョロ松君は、ひどく嬉しそうに笑って
「えっ、いいの?って、あれ全然変な意味じゃなくって・・・。じゃあ、こっちの道ですぐだから!!」と案内し始めた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ