Main(長編/不器用な彼女シリーズ)

□(3)
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決心したとおり、
私は翌日、北口昇降口に行ってみた。

まだ、松野一松は来てない様だった。
この間の猫が、何を期待しているのか、ニャアと鳴きながら足元にまとわりついてきた。

猫と並んでパンを食べ始めると、
あの時と同じように、一松が歩いてきた。

私が来ることを知っていたのかいないのか、
特に驚きもせず、当然のように隣に座って
おにぎりを食べ始めた。

私は、その行動がとても自然で、言葉を発するタイミングを失って
そのまま無言で二人でいた。
そして、その空間は、決して居心地の悪いものでは無いことを感じていた。

すると、となりでゴソゴソと何かを取り出して、
私に握らせた。手を開いてみると煮干だった。
えっ?なにこれ?オヤツ?と戸惑ってると
「ん。」と猫を指差した。

私が猫のそばに煮干を置くと、
な個はニャアと鳴いてそばに駆け寄り、
ガジガジ食べ始めた。

「ふふ、可愛い」と思わず笑みがこぼれる。

一松の方を見ると、人間には絶対見せないような笑顔で猫を見ていた。

ふーん。と、学校生活で演技している私もひねくれ者かもしれないけど、

猫にしか微笑まない、この男も相当なひねている奴だなと、呆れるとともに、
なんとなく、この男の前では無理をしなくて良いと気を許している自分にも気がついていた。

それからは、特に話をしなくても、
毎日、昼休みは、昇降口で過ごすようになった。

私は、すこし元気になってきた。

学校生活が疲れるのはいつもの事だったし、
一人暮らしの寂しさも、いつもの事だったけど、
なんの感情も抱かなくて良い、

あの感情の無いような男の子と、猫のいる空間が、
私の居場所のような気がして、
居心地の良い日々を過ごしていた。
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