Main(長編/不器用な彼女シリーズ)

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あまり、眠れないまま朝が来た。

身じろぎもせずに、自分の口をもう一度触ってみる。
昨日、一松とキスをした。





昨日の放課後、図書館から教室に入ると、
珍しく、まだ帰っていない一松がいた。

ああ、明日の教材当番かと勝手に納得して、声を掛けた。

昼休みから、何か言いたげだと様子が変だとは思っていたが、

なにか不満があったのか、そのまま私は壁に押し付けられた。

一松は、怒っているかどうかわからないけれど、
いつもの低い声で、でもいつもよりハッキリと

「俺みたいな男の服を着てたなんて、ばれたら困るよね、
相手は、いつもいつも一緒にいる大好きなチョロ松クンだしね。
前みたいに、優等生ぶって人気者ぶって誰にも心開かないんじゃなかったのかよ。
簡単にうちに来て楽しそうにしてんじゃねーよ。
簡単に男も作れるくせに孤独ぶってんじゃねえよ」
本心か本心じゃないかわからないけれど、

その言葉の刃は私を切りつけた。

優等生ぶって、孤独ぶって、その上、楽しそうにしてんじゃない・・・。

ここ二ヶ月ほどで作り上げた、自分の平穏と
一松という、自分の理解者だと気持ちを許してた、自分の居場所を一気に取り上げられて

胸の中がずたずたに切り裂かれたような痛みが走った。

そのまま顔を上げて一松をみると、
言葉を発したのは自分の癖に、
なぜか私よりも傷ついた顔をしていた。

なんで・・・?

私が、一松の名前を呼ぼうとしたら、

顎を抑えられ、視界がさえぎられた。

一松の口で塞がれて、キスをされていると気がついたのは、しばらくたってからだった。

少し、抵抗するような峰をトントン叩いたが、

こんな状況の癖に、
一松と唇を合わせている、安心感に、力が抜けていった。



私は家族がいない不安は常にあったが、
誰にも心を許さずに、でも
嫌われるのもいじめられるのも、一人になるのも恐くて、
いつもニコニコ嫌われないように、明るく楽しく優等生を演じてきた。

誰にも心を開かないくせに、誰かにそばに居て欲しいという矛盾があるのも、
本当の友達が欲しいと思っている弱い自分を認めなかったのも
自分で気がついていた。


2ヶ月前、校舎の裏の昇降口で、
「笑わなくて良い」と言ってくれたのは、この世界中に興味がなさそうな一松だった。

ムカついて、怖くて、でも嬉しかった気持ちが大きかった。

だから、二ヶ月以上もお昼に一緒にいた。
ただ、黙っていた空間も、着せてくれたパーカーの暖かさも、私の事をずっと救ってくれていた。


気がつくと、もう壁には追い詰められていなくて、
顔も唇も、開放されていた。

一松は、何も言わなかった。
私に、責めて欲しいのだろうか?許して欲しいのだろうか?

少女マンガのワンシーンのように、ビンタして走り去るのが正解なのだろうか?
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