Main(長編/不器用な彼女シリーズ)

□卒業(後編)
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「一松、ここってヤバクないの?」

「大丈夫」
そういって一松は、猫のようにひょいと1メートルちょっとの門を軽く跳ぶ。

ちょっと、寄り道しようと言われて
連れて来られたのは、今日卒業したばかりの高校の校舎だった。
すでに夜は深く、明りは消えている。

「だって、セコムとか警報とか・・・」
そう言いながら躊躇してると

「夏に十四松が忘れ物して一緒に夜中に取りに来たけど
ダミーの防犯カメラだけだから大丈夫だったよ」

「ほら」と言って中から手をさしだしてくれるので
私も、よいしょと門を上って
一松の手を握ってすとんと校門の中に降り立つ

子供の頃のイタズラみたいでドキドキする。

「夜の学校ってドキドキするね」

と一松に言うと
「ヒヒっ結構楽しんでんじゃん」とニヤリと
一松も笑う、
そのまま、夜の校舎に入っていく
さすがに正面玄関は施錠されているので、生徒なら誰でも知ってるサボリのときに便利な
一階の鍵が壊れている非常ドアから侵入した。

「うぉ、さすがに夜の校舎は迫力だね一松」

「そうだな、昨日チョロ松兄さんと観た映画思い出すよ、夜の校舎で昔自殺した霊たちが・・」

「バカ一松!今そんな話しないでよ!」

そういって、コソコソと廊下を歩く
お互い口に出して確認はしてないけど、
たぶん行きたい場所は同じコースだろう
階段を上って目指していく。

目的地について、暗闇にもなれてハッキリと見える。

「懐かしいね〜2年の教室」
私たちは、一緒のクラスだった2年の教室に来た、それぞれ、当時の自分の席に座る。
私は真ん中の席で、隣の席はチョロ松君だった。

「一松、いつも一番後ろで誰とも話さないから恐かったよ」

「莉乃はいつも、チョロ松兄さんとばっかり喋ってたよな」

「そりゃ、同じ委員会だったし、席も隣だったしね」

ふふっと笑って「妬いてたの?」と聞くと

「別に」とぼそぼそ言う。

明りの付いていない教室でも、窓から入る月の光でかなり明るい、
校庭には、少し早くに咲いた桜が舞っている。
二人で静かに教室で過ごす。

このクラスで一緒になって、知り合って
恋人になった私たち。
もしも、クラスが違ったら高校が違ったら
そんなことにはならなかっただろう。

本当に、小さな小さな選択の積み重ねで
出会ったんだなと思う
もし、神様がいるのなら、世界中の神様に感謝をする。

一松に出会わせてくれて ありがとうございますと。

私は席を立って一番後ろの壁に立って
「ねえ一松、壁ドンしてよ」

「はあ?しねえよ」

「え〜、なんで?前はしてくれたのに」

「あの時は感情的になってたし、壁ドンだのなんだのっって流行ってんの最近だろう?ハズイ」

「ふーん、残念」といいながら、一松ならまあ、そうだろうなとも思っていたので
さほど気にせずに、
そのまま壁に寄りかかって教室を見渡す。

狭い狭い教室と思っていたのに、人がいないと広いものだなと感慨に浸る。

ふと顔を上げると、
一松が立ち上がって目の前に来る
「いちまつ?」
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