短篇

□10年後。
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「咲乃ちゃん、今日有給でしょ??朝からどこに行ってたの??」

と十四松君が明るく聞いてくる。
なんだか、カンのよさそうな、この子には
隠し事が出来ない気がする。

「うん、ちょっと用事があったから・・」
と口を濁す。

そうしたら、積をきったように、5人の兄弟たちが
「用事ってなになに〜」
「ふっ・・・言ってくれれば、この俺が送迎したのにハニー」
「皆、そんなに咲乃ちゃんに詰め寄るなよ」
「もうっ、みんな、女の子は有給は自分磨きの時間だよね!」


などなど好き勝手なことを言って楽しんでいる。

一松は、私を見て、いつもの低い声で、

「あー、うるさいうるさい。ほんとなんで家を出てまで
毎日兄弟と会わなきゃならないんだよ。

咲乃もすこし顔色悪いんじゃないの?

こんな賑やかな場所疲れるでしょ、俺も本当に疲れるよ・・・」

とぼそぼそヒネたことを言いながらも、
心配してくれているのが伝わってくる。


私は、笑って、
そして思い切って、

「大丈夫、び、病気じゃないし、
それに、来年はもっと賑やかになるんだよ。」
と、私は、一松の腕をそっと取って、
一松の手のひらを私のお腹にそっと手を置いた。

一松は、理解するのに、たっぷり10秒はかかったようで、
ビックリしてフリーズしてから。
今までいない素直な笑顔で
「ありがとう」と私を引き寄せた。


それを見ていた、兄弟5人が盛り上がったのは
言うまでもないお話である。
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