short dream
□メイドはみた
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汐子・山佐野はみた。
「ハイジ、今日はよくやった。王も今回の戦況に満足されていた。」
「お、お父様。その呼び方はここではやめてください。」
それは、日頃神殿騎士として表舞台で活躍するオリヴィエ親子の姿だった。
要人用客室の清掃を任された汐子はたまたま人通り少ない廊下で二人をお見かけしたのだ。なぜ、壁角に隠れているかは彼女のメイドとしての勘としか説明できない。
「君こそ城ではお父様ではなく、父上と呼びなさい。」
「さ、先に呼んだのはお父さ、...父上の方ではありませんか!」
二人とも公共の場では気高く、美しい姿であるが、今汐子がみる光景には神殿騎士としての二人の姿はなかった。
「まぁ、でもアーデルハイド。今回は本当に頑張ったな。父としてお前を誇らしく思うよ。」
「父上、もう子どもではないのですから、頭を撫でるのはやめてください。」
「いいじゃないか。子を褒めるのも親の務めだぞ?」
なんということでしょう!
あのレオン公があのアーデルハイド様の頭を撫でている。
そして、あの凛々しいお顔を崩されたことのないアーデルハイド様の頬が、紅潮されている!
「ですが、誰がみているかわからないのですか」
カラン
アーデルハイドの言葉の途中、廊下の向こうの陰で音が鳴り響く。
感嘆の極みに汐子は手に持っていたモップを落としてしまったのだ。
「誰だ!!」
アーデルハイドが父を背に壁の向こうを睨む。
「誰だと聞いている!姿をあらわせ!」
「アーデルハイド、よい。大丈夫だ。」
おずおずと姿を見せる汐子にレオンはアーデルハイドを制した。
「最近入った使用人だな。私達に用か?」
「いえ、お部屋のお掃除にと...。そのお邪魔をしてはと思いまして...」
もじもじと話す汐子にアーデルハイドの顔が赤く染まっていく。先程よりも赤い。
「み、みたの?」
「何もみておりません。」
「きいた?」
「何も。」
汐子は二人から視線をそらす。
嘘と分かるその動作にアーデルハイドは怒りを耐えるような、羞恥を我慢するような表情になった。
「父上、それでは後ほど。」
彼女は何も言わず足早に汐子の横を通り抜けた。
「大公様、申し訳ありません..」
レオンは謝る汐子に静かに首を振った。
「良いんだ。あの子の珍しい姿がみれた。」
「?」
「今言ったことはあの子に言わないでくれよ?」
レオンは自身の唇に人差し指を当てると意味深に微笑み、その場を立ち去った。