★防弾少年団〜ぐくてて〜★
□■月下氷人■
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歌番組の収録前の控室でバックステージの撮影でカメラが回る中、いつものようにジミン、ホソク、ジョングクはカメラの前でじゃれ合っていた。
その脇でソクジンとユンギはメイクをしながら思い思いの時間を過ごし、ナムジュンとテヒョンは控室の片隅でスマートフォンを覗き込みながら、何やら深刻そうな表情で話をしている。
実際に歌番組の収録は数十分で終わってしまうが、待ち時間は準備も含めるとその何倍もの時間にもなる。そこで、いつものように番組スタッフからバックステージ撮影用のカメラを受け取ったジョングクがメンバを順番に撮影していき、どのメンバも愛らしいジョングクに笑顔で受け答えしていく。暫くして他のメンバを一通り撮影し終えたカメラが、まだ話し込んでいるナムジュンとテヒョンを捉えた。
最近、ナムジュンとテヒョンがこんな風に話し込んでいることが多い事にジョングクは疑問を覚えていた。元々二人の仲が悪い訳ではないが、こんな風に暇さえあれば四六時中語り合う事は以前はなかったし、ジョングクは以前のようにテヒョンが自分を構ってくれなくなった事を何より寂しく感じていた。
「わぁ〜♪レプモニヒョンにブィヒョンだぁ」
少し大袈裟に声をあげてカメラを向けるジョングクに、ナムジュンが立ち上って暗い表情のままのテヒョンを隠す様にカメラに顔を近づけ愛嬌を振りまき始めた。間もなくするとテヒョンのいつもの笑顔もジョングクのカメラにフレームインしてきて、ジョングクは思わず顔が綻んだ。
「あ。ブィヒョン、収録終わったらジャージャー麺食べに行こう?」
「今日も可愛いなぁ♪ウリジョングギ〜」
最近のテヒョンの様子から何となく直接言い辛くてカメラ越しに誘うジョングクに、テヒョンは嬉しそうにジョングクの頭をグシャグシャと撫でる。
―――あぁ、いつものヒョンだ。
ジョングクがそんな事を思いながら少し上機嫌にカメラを置いた直後、テーブルの振動に気付いた。視線を向けると、そばに置いてあるスマートフォンがずっと振動し続けている。覗いたディスプレイには「非通知」と表示されていて、数十秒毎に不在着信が出ているようだった。止まった直後に再びスマートフォンが振動し始める。
「ねぇ…テヒョニヒョン。これ、ヒョンのだよね?ずっと鳴ってるみたいだけど…」
「あぁ、ファンの子に漏れちゃったみたいでさ。番号変えないとな」
そう言って、テヒョンは苦笑してジョングクが持っていたスマートフォンを半ば強引に奪ってカバンに仕舞ってしまった。
「じゃあ、ジャージャー麺食べる前に携帯買いに行く?」
「うん、そうだな」
何処か不安そうな表情のまま頷くテヒョンだったが、ファンからの電話と聞いたジョングクは、その様子をあまり気にも留めていなかった。
「わぁ…最近のケータイなんてこれ以上何が進化するんだって思ってたけど…画面が断然綺麗だねっ。あ!こっちのデザインとかヒョンに似合いそうっ!ね、ヒョン♪」
無事に収録も終わり久々にテヒョンと二人で街に出れた事が嬉しいのか、ジョングクは立ち寄った携帯ショップに並ぶスマートフォンを目を輝かせながら眺めては、テヒョンに似合いそうなデザインを選んでいく。
「うん、それ良さそうだね」
振り返るジョングクに笑顔で頷いたテヒョンだったが、ポケットで鳴り続けるスマートフォンを見た直後、ジョングクでも気付く程にテヒョンの表情が青ざめた。
「どうしたの?ヒョン」
「あ…あ、ほら。この携帯、まだ変えたばっかりだしさ。急いで変えなくてもいいかなって」
「え?でも―――」
「ごめん、また今度にしよう」
それ以上テヒョンは何も言わずに携帯ショップを出てしまった。スマートフォンを見てからテヒョンの態度が強張った事は分かるが、ジョングクが何度内容を聞いてもはぐらかされてしまう。
結局その後、予定通り二人でジャージャー麺を食べに行ったものの、テヒョンの様子は何処かおかしいまま、ジョングクが話しかけても上の空な返事しか返ってこない。
そんな様子にジョングクは何も出来ない自分が悔しかった。
何も自分には話してくれない事が切なかった。
テヒョンは宿舎に戻るとすぐにナムジュンの部屋に籠ってしまい、テヒョンと使っている部屋に一人取り残されてしまったジョングクは、テヒョンのベッドの上で振動するモノを見つけた。
いけないと分かっていても手が伸びてしまう。仲の良いテヒョンとジョングクだから、お互いの暗証番号も把握している。後で覗き見した事を怒られても、テヒョンの苦しんでいる理由を知りたかったーーー