リクエストSS

□誰にも渡したくない
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突如万事屋に現れた神楽の父である星海坊主は、
ただでさえいきなり現れた星海坊主に驚いている
3人に対して、さらに追い討ちをかけるかの
ようにこう言い放った。

「神楽ちゃんに見合いの話がきた」
「……は?」

3人とも口を揃えて「は?」と顔をしかめる。
いや、この神楽に見合いって、またどこぞの
変なやつじゃないのかと思ってしまう。
そんなのはごめんだ。

「おい、どこのどいつだよ。こちとら危険な
ところにコイツを嫁がせるなんて真似したくねぇよ」
「銀ちゃん……!」

銀時は地球での神楽の父親でもある。
今まで面倒を見てきたまだ14歳の少女を、意味の
わからない見合い話になんて行かせたくなかった。

「それがな……同じ夜兎族なんだ」

この見合いの相手もまた、神楽と同じ夜兎の血を
持つ者だった。

「俺だって、変なやつなんかに神楽ちゃんを
渡すなんてことしねぇよ。けど、夜兎族だから
見合いくらいならさせてもいいかなと思ってな……」

「今日はそれを伝えに来た。近いうちにまた来るから
その時にどうするか教えてくれな」

そう言って星海坊主は万事屋から立ち去った。

(急に来たと思ったら見合い?何アルカそれ……)

「神楽、ゆっくり考えな?神楽が出した答えを
俺ァ受け入れる」
「銀ちゃん……うん。少し外に出てくるネ」

傘を持ち、外へ出る。いつもと変わらない太陽が
暖かく出迎えてくれる。
この太陽も、この江戸も、銀ちゃんも、
みんな大好きで、この町から離れるなんてこと
したくなかった。
けれど、心の片隅で夜兎族の未来を考えている
自分もいた。
この見合いを受けて、もし結婚したとしたら
間違いなく夜兎の子供を授かるだろう。
そしたら夜兎の血は引き継がれ、夜兎族が
滅びてしまうという心配はない。

夜兎の血は恐ろしいものだ。血に負け、心を失い、
戦場を生き甲斐とする馬鹿者を生み出してしまう。
しかし、それでも夜兎族もひとつの部族で、
家族なんだ。その家族を失ってしまうことも
心が痛む。

それに、地球人と結婚して子供を授かったとして、
夜兎の子供、地球人の子供、どちらの命が
産まれてくるなんてわからない。
もし、夜兎の子供が産まれてきて、その子を
ちゃんと育ててあげられるのか。幸せを与えて
あげられるのか。
愛する人を悲しめることはないだろうか。
不安の波が次々と襲いかかる。

(どうすればいいアルカ……)

気がつくと、いつもの公園に足を運んでいた。
そして、そこにいるのもいつもの顔。

「よう、チャイナじゃねぇか」

いつもみたくサボっているのだろう。
そう、いつもみたいに。
この言葉をこんなに重く感じたことなどなかった。
自然と涙が溢れる。

「えっ、何アルカこれ…なんで泣いてるの……」

何の涙なのかよくわからなかった。
江戸から出たくない?銀ちゃんたちと離れたくない?
いや、原因がそれだとしたらもう歩きながら
泣いていただろう。
それじゃあ、なんで……?

「おい、チャイナ…どうしたんでィ……」

あっ、と沖田が居たことを思い出した。

(わっ、コイツの前で泣くなんて一生の恥アル……!)

「何かあったのかよ」
「お前には関係ないネ」

お前には関係ないって、何かあったって
言っているようなものじゃないか……

「おい、チャイナ」

(何その声……優しい声なんて出して……)

頑張って我慢しているというのに、沖田なんかに
こんなこと言いたくないというのに……
もう、限界だった。

「サド……もうわからないアルヨ。お前お巡りダロ?
だったら……私を助けてヨ」

これが、今言える精一杯の言葉。
もっとちゃんと言わなければならないことなど
わかっている。けれど、こう言うことしかできないのだ。

「ねぇ、サド……お願いヨ……」

沖田の上着をギュッと掴み、うつむき涙をポタポタと
溢す。

「チャイナ……あぁ、助けるよ。お前の涙は
俺が止める」

なんでこんな優しいのか。この時の神楽は
わからなかっただろう。
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