他SS

□月明かりに照らされて
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お花見の最中、夜卜は毘沙門の唇を直接では
なかったものの奪った。
手のひらを毘沙門の口元へ持っていくと手の
甲にキスをしたのだ。
お酒が入っていたとはいえ、あんなにぶつかって
いた相手にすることではないだろう。
周りにいた者も驚きを隠せないでいた。
毘沙門は夜卜に殴りかかり、お花見は幕を閉じた。

その日の晩、毘沙門は眠ることができずにいた。

「あの男…私に……」

キスされたことを思い出す。
手越しとはいえ、あれも毘沙門にとってはキスの
ような大きなものだったのだ。

夜卜のことを考えていると、窓の外に人影が見えた。
こんな夜更けになんだと窓に近づくと、

「毘沙門、いるか?」

自分の名前を呼ぶ声がした。その声の主は……

「夜卜……!」

なんと夜卜が会いに来たのだ。

「お前、何しに来たんだ……?」
「……自分でもよくわからん」
「はぁ?」

毘沙門は口をパクパクさせている。

「とりあえず入れてくれ」とに言うと、よっと
部屋の中に上がり込んだ。

「眠れなくてな…そしたらオメーのことばかり
考えちまって」

目を反らし、口をもごもごとさせて話している

「昼間のこと、お前覚えているのか?」

夜卜は小さく頷いた。
てっきりお酒で忘れていると思っていた毘沙門。
まさか夜卜も覚えていたとはと驚いた。
毘沙門は力が抜けたようで「ははっ」と笑い出した。

「おい、何笑ってんだテメー」

夜卜は急に笑い出した毘沙門に眉間を寄せた。
それでも笑いが止まらない毘沙門。
夜卜はそっと毘沙門に近づき、手で毘沙門の口を
塞いだ。
夜卜は顔を赤らめながら「笑いすぎだ」と言い、
毘沙門の口を塞いでいる手の甲にキスをした。

二回目の手越しのキス。

夜卜も何故したのかはわからなかった。
身体がそうしたとしか言えない。
毘沙門は顔を真っ赤にすると、

「またお前は……!あぁ、もう完全に寝れなくなった」

恥ずかしさを隠すように小さな文句を言う。

「何、毘沙門も寝れなかったのか?」

手を離し、毘沙門の髪に触れながら問いかける。

(ほんと、綺麗な髪してやがる……)

髪を自分の指に絡める。

「あぁ…お前に昼間あんなことされたからな」

目を伏せて答える。

「ここに来た理由わかんねぇけど」

夜卜はそう呟く毘沙門をそっと抱き寄せた。

「今は、こうしてたい」

毘沙門から香る優しくて、いい匂いに包まれる夜卜。
抵抗しようとしない毘沙門を見て、

「お前はどうしたい?」

毘沙門に尋ねてみた。

耳元で聞こえる夜卜の声。
毘沙門は目を閉じ、腕を回して夜卜の首もとに
顔を沈めた。

「私も、こうしていたい」

月明かりがさしこむ窓辺で、2人の影が重なった。

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