銀魂SS

□赤い花が咲いた
1ページ/2ページ


人というのは自分の身よりも、誰か大切な人の
身ばかりを案じてしまうものなのだろうか。

 *

普通に暮らしている人々にとって何の変鉄のない
日常でも、ほんの一部では大変な事態が起きてい
る真っ只中かもしれない。

「おっ、さっちゃんじゃねぇか」

万事屋一行は偶然にも猿飛を見かけた。
いつもなら、こちらから声をかけずとも向こうから
飛び付いてくるのだが、今日はそれがなかった。

「さっちゃんどうしたアルカ……あ、ついに銀ちゃ
んに飽きたカ」
「そうだとしたらすごいことですねー雨降らなきゃ
いいな」

神楽も新八もさらりとひどいことも言っている気が
する。

こちらの声が届いたのか、いや、届いてたら少々マ
ズイこともあるのだが、猿飛が振り向いてこちらに
顔を向けた。

「銀さん」

その声にはいつもの元気がなく、何かあったのでは
ないかと思ってしまう。

「さっちゃん、何かあったの?」
「いろいろ、あって…銀さん、私どうしよう……」

何か大きなものをひとりで抱えているようで、銀
時らを前にして、その重圧に耐えられなくなった
のかその場に泣き崩れてしまった。

「さ、さっちゃん大丈夫アルカ!?」
「銀さん、一旦万事屋に連れて行きましょう……」
「あ、あぁ」

猿飛を連れ、万事屋に戻ってきた銀時たち。

「さっちゃん、何があったのか話してくれるか?」
「…言ったら、銀さんたちも巻き込んじゃう……」

言えない、と手で顔を覆う。

「さっちゃん、私達は万事屋アルヨ?困ってんなら
依頼するヨロシ」
「そうですよ。僕たちは依頼を受ければ何だってや
るんです」
「だから、全部ここで吐き出していいんだぜ」
「みんな……」

猿飛はゆっくりと、あった出来事を話出した。

「私宛に1つの依頼がきたの。普段通り受けたんだ
けど、行くなって全蔵に止められて……」

『猿飛、それお前行くな』
『……どうしてよ?』
『いいから……絶対だ』

「結局、全蔵に仕事持って行かれちゃって……
でも、アイツの様子もおかしかったし……それに
もともと私の仕事だったから気になって予定通り
忍び込んだわ。そしたら……これが落ちてて」

猿飛が取り出したのは全蔵のものであろう血まみ
れになったクナイ。

「いつもは後始末もしっかりするのよアイツ……
なのに、何でこれが落ちてたのか……全蔵と連絡も
つかないし、家にも帰ってないの。嫌な予感しかし
ないのよ……」

何かあったんじゃないか、そう何度も口にする
猿飛にかける言葉を失った。

こう行方をくらませるなんて、何かあったに
違いないとしか思えないから。

「と、とりあえず…現場に行ってみるか!」
「そうですね…!何か手がかりがあるかも!」
「さっちゃん、案内するヨロシ!」

ここで不安ばかり抱えて黙っているわけには
いかない。
少しでも、力にならなくちゃいけない。

 *

「何かいろいろとボロボロね」

猿飛の案内で来てみたはいいが、その屋敷は
何故かやけに壊れているような気がした。

「あぁ……全蔵を探してたらこうなっちゃって」
「どんな探し方してんですかアンタ」
「ま、まぁ中に入ろうよ……ね!」
「そうアル、さっさと入るアル」

扉という扉は全て壊されていて簡単に中に入るこ
とができた。

あちらこちらに飛び散った誰のものかわからない
生々しい血痕。
ここで何が起きたのかだいたいの検討はつくが、
それに伴い全蔵の身の危険が付きまとう。

「全蔵のものだったらどうしよう……」

いくら優れた力のある忍でも、ただの人間と根っ
こは変わらないのだ。時には負傷してしまうこと
だってあり得る。

「大丈夫だ……あの野郎が簡単にやられるわけ
ねぇ」

アイツのことを知っているのは俺らも同じだ、
そう言ってどんどん奥へ進んで行く銀時。

「さっちゃん、アイツのこと、信じようじゃねぇ
か」

俺たちが信じないで誰が信じてやるんだよ。

銀時の瞳には諦めなんてものはなく、前だけを見た
力強い意思だけがあった。

「銀さん……そうよね、私達が諦めちゃダメよね」
「行こう。んで、さっさとアイツ見つけて
請求書叩きつけてやんなきゃな」
「ふふっ、そうね。今回は全部全蔵持ちで」

 *

辺りを散策していると、いくつかの人影を見つけた。

「さっちゃん、あれは……?」
「今回消すはずだった…ヤツらよ……」

何で?何でアンタたちが生きてるのよ……

目の前が真っ白になった。
気がついたときには、クナイを握り敵の中に向かっ
て走り出していた。

「アンタたち、全蔵はどこ……答えなさい」
「ひぃ…!」
「死にたくなかったら、答えなさい……
答えなさいって言ってんのよ!」
「さっちゃん……!」

一足遅かった。
猿飛は1人の男の首を斬りつけ、殺した。
勢いよく飛び出す血と、仲間の男たちの悲鳴……
恐怖のどん底へ落とされ、自分たちが今どんな
状況にいるのかというのがわかったのだろう。
声を震わせながら、次々と話出した。

「あの日、男が1人で乗り込んできて……
ほとんどのヤツらはやられちまったんだ。
ものすごく強くて、刀1つじゃ敵わなかった……
だ、だから…く、薬を使って……この近くにある
廃工場で監禁して……ほ、本当だ!嘘じゃない……
だから命だけは助けてくれ……!」
「そう……もういいわ、黙って」

死んで。

「さっちゃん!そいつらは殺らなくていい……
それよりも早くその工場に行こう」

猿飛を止めに入り、落ち着くように促す。
今ここでこいつらの命を奪ったってどうにもなら
ないのだから、と。

「銀さん……ごめんなさい、私……」
「大丈夫だよ。とにかく急ごう」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ