銀魂SS

□たったひとりの兄妹
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家族、兄妹、どれもたったひとつだけ。
一度失えば、二度と取り戻すことなどできない。
だからこそ、どうすれば良いのかと悩み、迷う。
葛藤を繰り返し、ひとつの答えを選び抜かなければ
ならない。



6月に入り、少しずつ夏が近づいてくるのがわかる。
江戸の町に住む者たちも衣替えをし始めていた。
見ているこちらも涼しく感じてとても心地よい。
この太陽には参るが、こう季節の変わり目の
変化というものを見ていくことは好きだ。
地球の素晴らしさを感じる。

傘をクルクルと回しながら練り歩く。
今はひとりだ。昼間は暑くなってきたため
定春の散歩は朝方に変えた。
町を見ながら、太陽の暖かさを感じての散歩。
こうしてのんびり散歩するのも悪くない、そう思って
歩いていると、ふと目に入ったケーキ屋さん。
別に食べたいなと思って見たのではない。
誕生日ケーキを受け取っている親子がいたのだ。
ケーキを受け取り、嬉しそうに喜ぶ男の子。
その姿を見て、神楽は兄の神威のことを思い出していた。

そう、今日は神威の誕生日。

小さい頃に、お母さんと小さなケーキを作った
ことがあった。兄の誕生日のお祝いのために。
小さくて、形も上手くはできなかったが、神威は
とても嬉しそうに笑って「ありがとう、神楽」と
喜んでくれたのだ。

(あぁ……そういえばあれ以来お祝いしてあげたこと
なかったアルナ……)

またいつの日か祝ってあげられる日はくるのだろうか……
来て欲しい。

少し気分が暗くなってきてしまった。
一旦休憩にしよう、そう思い公園へと向かった。
ベンチに腰掛け、顔を落とす。
もう頭の中は神威のことでいっぱいだった。
神威は大馬鹿者だ。一発ぶん殴ってやりたい思いは
変わらない。しかし、それでもたったひとりの兄だ。
失いたくないし、できることなら一緒にいたい。
誕生日だって祝いたい。
この願いが叶うことなどないことはわかっている。
それでも願っていたかった。

目尻に涙が浮かぶ。手で拭おうとしたとき、
その手は目元に運ぶ前に目の前にいた男によって
掴まれてしまった。

「泣いてんの?」

普段なら嫌味たくさんで馬鹿にしてくるというのに
今日に限ってはそれがなかった。
むしろ優しい声をしていた。

「泣いてないアル。雨アルヨ」

雨など降っていないが、とりあえずここは適当に
流そうと考えた。

「は?雨なんて降ってねぇだろィ。って、あれ?」

空からポツ、ポツ、と雨が降ってきた。
神楽にとっては本当に恵みの雨となった。

「くそ…天気雨かよ」

空は少し雲がかかっているというだけで
太陽は顔を出していた。

とっさに「だから言ったダロ」と付け加えておく。

「私が泣くなんてあり得ないアル」

大声をあげて笑ってみせる。
涙なんて出てくんな、そう言い聞かせるため
とも聞こえてくる。

「嘘つけ」

先程掴んだ手を握り変え、神楽のもとにしゃがみこむ。

「泣いてた。無理して笑うなよな」

あぁ……本当に今日のコイツはどうしたものか。
変なものでも食べたんじゃないか?
いや、それは私のほうか……

必死に止めようとした涙が頬をつたう。

「今日、神威…馬鹿兄貴の誕生日なんだヨ。
ケーキ屋さんで誕生日ケーキ受け取ってる親子見たら
昔を思い出しちゃって……あの頃みたいに
お祝いしてやりたいんだヨ……!」

それは、兄である神威に会いたいという神楽の思いの
叫びだった。

「そっか……今日、オメーの兄貴の誕生日か。
そりゃ直接祝ってやりてぇよなァ……うん」

沖田は今は亡き姉、ミツバのことを思い出していた。
自分も、江戸に来てからは姉の誕生日を祝ってあげる
ことができずにいた身。
今、こうして話してくれた神楽の思いは痛いほどわかる。

「よし、今から兄貴のお祝いしようぜ!
ケーキ買って、一緒に食べよう。一緒に祝おう。
きっと思いは届くさ…地球にいようが宇宙にいようが、
ちゃんと届く。兄貴の誕生日だっつーのに
んな暗い顔してんなよなァーこのバカチャイナ」

たったひとりの兄なんだ。大切にしなきゃダメだ。
なくしてしまってからじゃ、遅いんだから……

「サド、ありがとナ。今日だけは特別に素直に
なってやるアル」
「おーそれはどうも。さっ、行こうぜィ」

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