銀魂SS

□私達の有効射程
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どんなに離れていても、何故かその存在に気がつい
てしまう。
そして、逃げる間もななく私達の視線は絡み合い、
私達を引き合わせる__


 私 達 の 有 効 射 程


今日もまた、ヤツと出会した。少し離れたところに
見つけた、あの男の姿。
太陽の光で色素の薄い明るめの茶髪がいつも以上に
眩しい。

男は1人だった。巡回……いや、サボりの最中なの
であろう。

男の姿に目を向けながら、心の中で独り呟く。
そうしていると、男も私に気がついたようだ。ニヤ
りと口元に笑みを浮かべながらこちらへ近づいて来
る。

一度視線を交わせば、もう逃れられない。いや、一
目姿を見てしまえばの間違いか……

「よォ」
「……おぅ」

いつも通りの軽い挨拶を交わす。
顔馴染みではあるものの、そこまで親しい間柄でも
ないのだ。
なのにだ、私達はいつもこうして引き合わされる。
悪戯にも程があるぞ神様。

別に嫌だとは思ってはいない。ただ、胸のあたりが
痒くなるんだ。
そう、この男の姿を、顔を、笑みを、声を間近で感
じると、いつも現れる不可思議な現象。

しかし、このことをコイツになんて知られたくない。
私の直感がそう言っている。というか、こんな性格
を持つ男に知られでもしたら、面倒臭いこと間違い
なしだ。

だから私は、この仮面(マスク)を崩さない。
この男に壊されない限り。


「またサボりかヨ、税金泥棒さんよォ」
「サボりじゃねぇ。お巡りさんは市民の安全を守っ
てる最中なんでィ」

よく言ったものだ。今まで真面目に巡回をしている
姿なんて見たことがない。土方(上司)と一緒のとき
だって、隙あらばいつも抜け出しているだろう。

って、私どんだけコイツのこと知ってるアルか……

慌てて思考回路を巻き戻す。
私はストーカーになんてなりたくない。というのは
ただの建前に過ぎなくて、実際のところは仮面が外
れてしまうのを恐れているだけ。
この胸の、歯痒さにも似たどうもできないものに負
けてしまわぬよう、必死に守っているのだ。

こうでもしないと、いつこの狼が牙を向けるかわか
らない。

「そっちは?暇してたんだろ」
「別に暇なんかじゃないアル。散歩中ネ」

いや、それを暇してるって言うんじゃねぇか……
そんな視線を向けられた。
ちょっと頭にきたから「お前こそ暇してんダロ」と
鼻で笑ってやった。お互いに睨み付ける。

いつもなら、ここから喧嘩に発展するのだが、こ
こ最近それが全くと言っていい程にない。

あぁ、ほら。まただ__

沖田は「職務中なんでねィ」と言って、神楽の横を
通り抜けて人混みの中へと姿を消した。

「何なんだヨ……アイツ」

私も私だが、アイツもアイツだ。
沖田の背中を目で追う私は、どんな表情をしている
のだろう。これですでに仮面壊れてるんじゃないか
と思ってしまう。


日も暮れた夜、神楽は銀時におつかいを頼まれ、コ
ンビニに来ていた。
「ありがとうございましたー」
店員の声と、自動ドアの音を背に歩き出す。
万事屋方面へ歩いていた神楽だったが、不意に後ろ
に振り返った。誰かに呼ばれたわけでもなかったの
だが……
何もないなと一呼吸吐き、止めた足を再び動かした。

こういうことも度々ある。
誰かがいるような、そんな気配を感じるのだ。
そして、その気配とやらは、だいたい当たる。

小さかったが、神楽は聞き逃さなかった。
確かに今「チャイナ」と呼ぶ、アイツの声がした。

慌てて後ろを振り返ると、そこには沖田の姿があっ
た。

沖田は、逃げるように慌てて走り出した。
私の顔を見た沖田の顔は、とても寂しげだった。
なんでそんな顔をする?
昼間も、ここ最近ずっと、どうして私を避ける?

今、聞かなくてはならない。そう思った神楽は、手
に持っていたビニール袋を手放し、沖田を追い走り
出した。

数分後、沖田を捕まえた神楽は、切れた息のなか沖
田に尋ねた。

「どうして私を避けるアルか?」

沖田は、うつ向くと神楽に応えだした。

「オメーがどんなに離れていても俺はすぐ見つけら
れて、すごく、近くに感じて。すげぇ嬉しいって思
うんだけど、こう……胸の辺りがおかしくて、それ
がその……顔、合わせずらくて」

何アルかそれ……それじゃ、いつも私を見つけたと
きに見せるあの笑みは何アルか?お前も、仮面を付
けてたのカ……

そう考えると、急におかしく感じて笑えてきた。

「悪いアル……ははっ、そっか。お前もだったんだ
ナ……」

何が?そんな顔をしている。いつものドSとは思え
ない表情をする沖田を前にして、神楽は今までの不
可思議な現象の原因であろうものを見つけた。
いや、もしかするともうすでに見つけていたのかも
しれない。ただ、そのものの『名前』を知らなかっ
た。ただ、それだけのことだったのかもしれない。

「サド、私もお前と同じこと、悩んでたアルヨ?」

(ほんと、お前のせいですごく大変だったアル)

「マジでか」
「マジアル」

沖田は驚いた顔を見せるも、私と同様に何か答えを
見つけたような、吹っ切れた顔をしていた。

「なんか俺ら、少し関係性変わる?」
「変わる?って何アルか。どう変わるっていうネ」
「……恋人?」
「だから何で疑問系なんだヨ」
「んでも、恋人ってなんかピンとこねぇなァ……
これが『好き』っていうのかねィ……」

まぁ、恋だなんて私達には縁遠いものだから、少し
難しい。
それでも、気づいたこの答えを間違いだとは思わな
い。

「今はまだ、ゆっくりでいいんじゃないかナ」

そう、慌てることなんてない。

「そうだな……」

だって、私達の有効射程は無限に広がってる。そん
な気がする。
いつ、どこにいたって、私達は互いに見つけること
ができるだろう。そう、私達はもう互いの射程圏内
の中にいるのだから。
慌てることなんて、ない。でしょ?


ATOGAKI postscript
無理矢理タイトルとこじつけて、その上勢い任せで
書いたので、書いた本人も理解不能な状態……
もう意味がわからないよ母さん。

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