@

□initiative
1ページ/2ページ


人間とは、なんて欲深い生き物なのだろう―――なんて、頭にふと哲学的なことが思い浮かぶ。

好きな人と恋人同士になれて、それだけで幸せでたまらないはずなのに。
その上、タマの気が向いたときには向こうから擦り寄ってくれて、手をつないで、抱き合えて、キスだって出来る、のに。
けど、それだけ、だ。
この現状を“それだけ”だなんて、考えてしまっている俺はもうタマと出会う前よりもずっと欲深い生き物になってしまっていた。







ドサリ。
押し倒した体が自分が想像していた以上の勢いで崩れていって、盛大にスプリングが鳴った。
もしかしたら倒されたタマよりも俺のほうがびっくりしていたかもしれない。
慌てて「大丈夫?」と訊ねると、ギロリと鋭く睨まれる。
「バッカ! 痛ってーよ!」
「ご、ごめん」
顔を逸らそうとしたのに、まっすぐこちらを見た瞳があまりに揺るぎなくてギュっと拳を握る。汗がびっしょりだ。
その上、喉がカラカラで上手く声が出せずにいる。
ほら、俺はタマの前だとこんなにも情けない。
「あのさ、タマ、俺……」
でも、ここまで来て、もう今更逃げられなかった。
腕の下にいるタマを見つめて、ゴクリと唾を飲み込む。
「……抱き、たい、です」
タマと付き合い始めてから考え始めていたことだったけれど、それを求めていいのかということを考えていたら、ずっと言えずにいたこと。
だって、男同士、だし。
セックスはキスをしたり抱き合うのとは全然違うし、そう簡単に、言い出せるわけなんかなかった。
でも、俺たちは付き合っている。もう一年も。
たぶん、一年も付き合っていてセックスをしないカップルなんて珍しい部類だと思う。
だからというわけじゃないけど、どうしても、俺はタマを手に入れたくてしかたなくて、たまらなかったんだ。


ねえタマ、こういうこと、出来るし、したいと思うから、俺たちはただの仕事仲間ではいられなかったんじゃないの? 全部、俺の見当違い?


―――なんて、頭がぐちゃぐちゃになってどうしようもない。
沈黙が痛くて、今度こそ目を逸らそうとすると、ようやくタマの体が動いて、すっと俺に手が伸びてきた。
「な、みやた」
「…ん」
「ちょい確認なんだけど」
ツン、と頬ををつつかれる。
「抱くって、お前が、俺、を?」




next.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ