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□逃げ腰センセーション
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いい感じにほろ酔い気分だったのもつかの間。
バタンと視界が反転したその瞬間に「おい」と自分でもびっくりの低い声が出たので高木のほうもびくんとなったわけだけど、
それでも変わらなかったこの体勢にオレは今とても不満を抱いている。
もしかしたら今なら視線で人を殺せるんじゃないだろうか。

「……やっぱ、ダメ?」

高木がいつになく超真剣な顔で聞くから、ふざけて言ってるわけではないってわかるけど。
それでも、こんな風にいきなり押し倒されて「ハイオッケー」なんて言えるほどオレは頭フワッフワなやつじゃないし、
そもそもこの状況自体にムカつくポイントがいくつもあるんで。
そりゃ、ダメ、ですよ。

「オレ、高木のそーゆーとこダメだと思う」
「え! どーゆーとこ!?」

睨みつけるように言うと、かぶせ気味の返事。
直す!直すから!と喚きながらギュウと抱きしめ―――というよりも覆いかぶさってくるのでとてつもなく重い。
そして高木が必死すぎてこわい。
というかこいつが分かっていてそうしているのか、無意識的なのか、オレにはわからないけど。
「高木が大事な話する時っていつもオレが酔ってる時だよね」
そーゆーのズルイよ。といつもより低めの声を意識してつぶやく。
そこんとこどうなんだいベイベー?とばりに高木の反応を見ていたらウッと喉を鳴らしたので、意識的に狙っていたことが判明。
こいつまじか。ちくしょう。今回はお前のせいで酔いなんか一気に覚めたけどな。
しかしまあ、言い訳くらいは聞いてやろうかと待ってやると、高木は「ほんとごめん」とあっけなく謝り、
オレのモチベーション的な何かを低下させたのち、またオレの方をちらりと見て「けど」と口を開いた。すると。

「伊野尾くんとエロいことがしたいんです、真剣に」

もう完全に開き直っていた。
なにこれ、超ド直球なんだけど。さっきまで酔っ払ってる人にしか迫れないヘタレだった高木が、超真剣な眼差しを向けているんだけど。……どうしろと。

 つーか、エロいこと、って。

「……してるじゃん」
「してない! 扱き合いとかそういうんじゃなくてもっとエロいのがしてぇの!」
「バカ! 何ヘンなことでかい声で言ってんの!?」

いや、分かってるけど。
高木が今まで我慢してんだろうなーとかそういうのは、分かってるんだけど。
そもそも仲良くなるまでに時間もかかって普通のメンバーとしての関係が長くて、キスすんのにだって時間、かかったのに。ねえ?
……とりあえずこの体勢からの打破を試みたものの、上からの圧力が強すぎる。
下から上に押し上げるのはかなりの力がいるんだな。不利だ。
ほんと、こいつの、普段は気遣い屋なくせにこんな時に限って意外と押せ押せなところがオレはこわい。

「ヘンなことじゃないって! オレ、伊野尾くんとセックスしたい!」
「うるさいな! 隣に聞こえてたらどーすんだ!」
「なんでやなの? もう付き合って結構たったじゃん?」

ぐいぐい来るな。今日のこいつぐいぐい来るぞ。
はぁ。抵抗する力もいまいち出ないから、この体勢は仕方ないから受け入れることにしよう。
しかしここで屈するわけにはいかない。なぜなら。

「ぜってーオレがヤられる側じゃん! 無理! 死ぬ! 絶対に死ぬ!」

わーわーぎゃあぎゃあと。さっきまでひっきりなしに騒いでいましたよ。それなのに。その言葉を叫んだ途端に突然の沈黙。
―――その瞬間、オレは、悟った。
ここで「じゃあオレがヤられるから!」とかいう流れにはならない=こいつの中で最初からオレが女側だったという、決して難しくない方程式を。

ちくしょう! 分かってたけど高木のバカヤロウ!
しかも何も言い返してこないくせに腕の力は緩めないあたりもむかつく。なんなのこいつ。
しっかり者か! こいつ色々抜かりないな!

うー。とオレも高木もよく分からないうめき声をあげる。
反省してるのか。オレを女側としか考えてないことに反省しているのか。
いや、してないだろうけど。はぁ。いつになく真剣な顔。
高木の目がゆらゆらと揺れて、オレをまっすぐに見ている。

「……いのおくんごめん、やっぱ、抱きたい……」

あーもう。オレはどうしたらいいの。



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