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□キミだけでいいのに
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高木雄也、誕生日当日。

“べつにこんなに大騒ぎじゃなくたってよかったのに”と、
頭の中でぼやきながらグイっとジョッキを傾けて酒を大量に流し込むとオレの飲みっぷりに周りのヤツらは
「やるじゃん〜!」となどとはやしたてて「もっと飲めよ、主役!」と次々に酒を煽った。
ああ、なんて、酒が進む。

騒がしい大広間の座敷。
宴会が始まって早一時間が経った今、襖でしきられたこの一区域にはもう酒の匂いがぷんぷんと漂っていて、
テーブルには所狭しと美味しそうな料理が広がっていた。

そんな風によくこんなに集まったなという人数が居酒屋を占拠し大いに盛り上がっているわけだが、
オレの心境は正直なところ微妙で、どちらかといえばガッカリしていた。
誤解なきように言っておくけれど別に祝われて嬉しくないわけではなくて、それはもちろんとても嬉しいことだと頭の中ではキチンと認識している。
そんなの当然、わかっている、嬉しいしありがたい。
口々に言われる「おめでとう」を飲み込めないほどオレは年を食っているわけじゃないし、元来オレこうやって騒ぐのは好きな方だ。
普段ならば絶対楽しく盛り上がれるに決まっていた。

そう、普段、ならば。


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