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□逃げ腰センセーション
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「ダメ? 絶対に?」
「……絶対に」
「どうしてもどうしても、ダメ?」
「ダメだ、って言ってるだろ」

こんな押し問答がかれこれもう10分。
こんなに引き際の悪い高木ははじめてで、正直、戸惑っている。
つーかなんで今日なんだよ、こんないきなり。

「高木、……しつこいって」

何度聞かれたって頷くつもりなんてないのに、あんまり迫ってくるからぴりっとした声が出る。
したくないっていうか、こんなの、いきなり聞かれてすぐに頷けるようなものじゃないし、ましてやオレたち男同士なのに。
突然押し倒されて、それで、ダメか、なんて、ダメに決まってるじゃん。

考えていると段々腹立たしくなってきてふいとそっぽを向いて、もう取り合いませんのポーズ。
すると高木がぎゅ、と一度オレの手を握ってから力を抜いた。久しぶりの開放だ。

「じゃあいつならいいの?」

すると、いつもみたいに、ふざけた声でも、ふざけた態度でもなくて、真剣にオレに問いかけてきて。オレは逃げきれなくなった。
お前の、そーゆーとこも、ズルイ。
 

「別にいきなりじゃないじゃん。オレが、ずっと伊野尾くんのこと抱きたいと思ってたのなんて、伊野尾くんだって分かってただろ」

そんな風に切なげに言われても、苦しそうに言われたって、オレだってどうしようもないのに。
だって、分かってたからってなんだっていうんだ。
分かってたって覚悟なんて出来るもんじゃないだろ。やめろよ、バカ。泣きたくなってくるから。

「……今のままじゃダメなのかよぉー」

ついぽつりと、思わず情けない声が出てしまう。
そりゃあこいつと恋人になって、いつかそーなる日が来るだろうとは思っていて、だけどそんなのやっぱ、こわいに決まってて。
……だって、オレだって男なんだぞ。
そんな自ら抱いて欲しいなんて思えるわけないじゃん。
お前自分がけっこう酷いこと言ってるって、知ってるのかよ。

ああ、高木の視線が痛い。
ぎゅうと拳を握って、口を開く。
かわいそうなくらい眉が下がって、そのくせに、引こうとしないなんて、高木はひどい。

「ごめん、今のままは、ヤだ。
……これは、オレのエゴだって、分かってるけど、オレは、伊野尾くんが好きで、好きだから、伊野尾くんのこと、すげー欲しいの。
キスだって、すんのすごい時間かかったし、セックスなんてもっと時間かかるって覚悟、してたけど。
キスに2ヶ月、それから7ヶ月。で、まだダメ? そしたらあとオレ、どんだけ待てばいい?」

―伊野尾くん、愛してる、抱きたい

ごくり、と喉が鳴った気がした。
どっちの喉なのかとかも、もうよく分からなくて、ただ、ぐるぐるする。
だってオレは、好きだって、オレのこと欲しいって、そんな風にバカみたいに必死になられたら、もう、わけわかんなくなる。

「うー……あー……」
もう、なんかオレ、泣きそうだぞ。分かってんのか、高木。
「あと、もうちょい、待て、ばか」

意味わかんないけど目頭がすごい熱くて、視界に膜が張っていくのがわかる。
超、情けない。もう、やだ。くるしい。

「いのおくん」
「んだよばか」
「あとちょい、待ったら、いいの?」
「高木って空気読めないの?」
「もう少ししたら、してもいいの?」
「……バカなの?」

そしたら「うん、ごめんね、バカだよ」って、高木がバカを認知して、バカみたいにしつこく確かめてきて、バカみたいにギュウと抱きしめてきた。
なにこれ、せっかく開放されたばかりだったのに。高木はバカだ。バカすぎて泣ける。

「ぜってーいのおくんのことメロメロにする」
「……たかきの、そーゆー無神経なとこ、とてもイヤ」
「んふふふふふふ、ごめんね」
「もーやだー」

ギュウ、ギュウと。痛いくらいに抱きしめられて苦しかった。
だけど「うれしい」って幸せそうな吐息が耳をかすめて、何故だか、きゅうって心臓が縮んで、切なくなる。
そしたら、追い打ちみたいに「キスしてもいい?」と高木がバカみたいに聞いてきて、バカみたいだと思ったのでとりあえず殴った。
ああ、くそ、高木、本気で、むかつく。
なんだかんだで、お前の思う通りになった気がする。
好きじゃなかったら、キスだってさせるわけがないのに、キスでさえこんなにも緊張するのに、それ以上だなんて、その時オレは死んでしまうんじゃないかって、思うのに。
ああ、考えたらやっぱこわい。どうしよう。どうしよう。高木。高木。

「好き。好きだよ伊野尾くん。あと少しだけ待っててあげるね」

だけど、キスよりも先に幸せのため息のほうが唇に触れた瞬間。
まあ仕方ないかなんて、またそんな気にさせられてしまって、目をつむってしまう。


言わないけど、オレだってお前が好きだよ。




end.
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