日進月歩番外編

□彼の目覚めを待つ
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黒尾視点





その日は少し、いつもと違っていた。




朝練にユキがいなくて、そのうえ監督まで来ていなかった。
監督が開始時間にいなかったことは今まで何度もあったが、それにしても遅い。



ユキだってそうだ。
あいつが朝練に遅れたことなど、一度もない。


何だか落ち着かねえ……。
すると突然、体育館の扉が勢いよく開かれる。









「っ黒尾!海!夜久!」

「何だ、安川か。どうした」





息を切らしてやって来たのは、ユキと同じクラスの安川陸。
そんな安川の状態に、周りは何事だ?
と首を傾げる。


そして安川の放った言葉に、俺たちは大きな衝撃を受ける。









「っ雪村が!雪村が事故に遭った……!」

「「「!」」」


























































放課後、俺たち2年生はユキが入院している病院へとやって来た。
部活の方も監督が気を利かせて、2年生だけは自由にしていいと言ってくれた。







「嘘だろ……?ユキ」




夜久は目に涙を浮かべていた。
海だって泣いてはいないものの、その拳は固く握り締められている。




ユキの母さんの話によると、ユキは昨日の部活帰りに信号を無視した、飲酒運転の車とぶつかったらしい。









「何で……なんでユキなんだよっ!」



目の前には、たくさんの管を繋がれたユキの姿。顔はびっくりするほど白かった。







「ユキっ!ユキっ!」

「夜久っ!大丈夫、大丈夫だ」





ボロボロと涙を流す夜久を、海が必死に落ち着かせる。
その様子を横目で見ながら、俺はボーッとしていた。
思い浮かんでくるのは、昨日のユキの姿。



昨日のユキは、すごく調子が良かった。
スパイクもブロックも成功率が高く、サーブも強烈だった。

そして、言ってたんだ。







『今年こそ、全国に行こうな!』








誰よりも嬉しそうに語っていた。


ユキはスゲェプレイヤーなんだ。
こいつの実力は全国にだって通用する。
なのにっ……!









「どうしてお前だったんだよっ……!」



なんでお前が、事故に遭わなくちゃいけなかったんだ……!







「なあ、ユキ。頼むから早く目覚めてくれ。また、俺らとバレーしようぜ」





そう言っても、ユキからの返事はない。



一生に一度のお願いだ。





「こいつの命だけは、奪わないでくれ……!」










ポタリ、と一筋の雫が俺の頬を流れた。






























彼の目覚めを待つ
(三日後、彼は目覚めた)
(しかしこの世界は)
(彼から翼を奪った)
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