日進月歩番外編
□負けていられない
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5月26日。
それは俺、安川陸の誕生日であるーー。
「安川先輩!お誕生日おめでとうございます!」
「おー安川。お前今日誕生日なんだってな。おめでとー」
「おい安川!誕生日おめでとう!これプレゼントな!」
朝、学校へ来ると多くの人から自分の誕生日を祝ってもらえた。
後輩や同級生、先生からも「おめでとう」と言われた。
言われる度俺は「ありがとう」と返すのだ。
自分の誕生日を祝ってくれるのは、単純に嬉しい。ただ、教室に着くまでにすげえ時間がかかった。
ようやく席に着き、一息つく。
しかし、すぐにチャイムが鳴り俺は授業の準備を始めたのであった。
*****
「〜〜であるからして、ここの文は……」
朝から眠たい授業を聞きながら、俺はちらりと後ろを見る。
後ろの席にいるはずの人物は、今日は欠席。
その人物である雪村は、本日病院である。
事故に遭った雪村は、日常生活に支障はきたさない程度まで回復したが、それでも後遺症がないという訳ではない。
バレーをしている以上、いつ状態が悪化するのかわからないのだ。
そして今日は朝から病院で、精密検査を受けている。
「やっぱ、違うんだよな……」
いつもはいるはずの人物がいない、というのは落ち着かないものだ。
どうしても、事故の時を思い出してしまう。
あの時は本当に、肝が冷えた。
目の前にいた雪村がまるで別人のようだったからだ。
まあ、いろいろあったが無事部活に戻れたということが俺は1番嬉しかった。
また、あいつのプレーが見れるのだから。
「ある意味、これが俺にとって1番のプレゼント。だったりするんだよな」
「安川、何か言ったか?」
「いえ、何も。どうぞ授業を続けてください」
そんなあいつの為にも、今は授業のノートをしっかりと取っておいてやろう。
*****
放課後、俺は部活に行くためグラウンドを目指していた。
今日のメニューは……と考えている中、聞こえるはずのない人物の声が耳に届く。
『おーい陸ー!』
「雪村!?」
なんでお前が。
雪村は俺の姿を見つけると手を振り、走って俺の元へとやってきた。
『なんとか間に合ったな』
「どうしたんだよ。お前今日は休みだろ」
『まあ、そうなんだけど。部活の方に顔出そうかなって』
そう言って困ったように笑う雪村に、俺は苦笑する。
ほんっと、雪村ってバレー好きだよな。
でも、そんなお前に俺は惹かれたんだ。
『あとは、陸に用事』
「俺に?何かあったか」
はて?と首を傾げる。
雪村はガサガサと鞄の中をあさる。
そして綺麗にラッピングされたものを、俺の前に出してきた。
『誕生日おめでとう、陸!』
「!」
『俺、本当にお前には感謝してる。陸に出会えて良かった!』
笑顔で言う雪村。
俺は心が温かくなっていくのを感じた。
「ありがとう」と言って俺はプレゼントを受け取る。
『じゃあ俺は部活に顔出してくるよ。陸も部活頑張れ!』
「おう。お前もな」
『当たり前だ!』と言って雪村は体育館の方へと走っていった。
あいつ、膝大丈夫か……?
雪村の姿が完全に消えてから、俺はプレゼントを開ける。
入っていたのは、タオルとリストバンド。
一見普通のプレゼントに見えるが、よく見ると俺の背番号と名前が刺繍してあった。
……あいつ裁縫もできたのか。
「俺も雪村に負けてられないな」
雪村からもらったタオルとリストバンドを握り締め、俺はグラウンドへと向かった。
負けていられない
(安川先輩、気合い入ってますね!)
(負けてられない相手がいるからな)