日進月歩番外編
□もう一つの物語
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・もし、夢主と松川が従兄弟だったら
『東京の音駒高校3年、雪村怜と言います。松川一静とは従兄弟で、今回一静に頼んでこちらの練習に参加させていただくことになりました。よろしくお願いします』
「と、まあこういうことで今日一日、雪村君が練習に参加する。彼から学べることもあるだろう。皆よく見ているように」
夏合宿が終わった後、俺は家族と宮城に来ていた。目的は従兄弟である一静の家に行くこと。
そこで俺は一静に無理を言って彼の通っている学校、青葉城西のバレーボール部の練習に参加させてもらうことになった。
入畑さんも溝口さんもとてもいい人だ。
「怜、分かってると思うが無理だけは禁物だからな」
『大丈夫。そこら辺は自分のチームメイトに躾けられてるよ』
毎日のように言われ続けたからな……。
主に衛輔から。
「へえー。君が噂の"蒼壁"君かあ。まさか松っつんにこんな従兄弟がいたとはねえ」
『そりゃどうも。それと蒼壁じゃなくて、ちゃんと名前で呼んでくれるかな、及川君』
ニコニコと、人当たり良さそうな顔で近づいてきた及川君。だかその目が笑ってないことは俺だって分かってる。
まあ、警戒されるのも当然だよな。
「おいクソ川邪魔だ」
「ヒドイな!!」
「俺、花巻貴大。よろしく雪村」
「俺は岩泉一。雪村のブロック技術には俺も尊敬している。よければ色々教えてくれ」
『こちらこそよろしく、花巻君、岩泉君。俺でよければ教えれる範囲で教えるよ』
「君付けなんかいらねえよ。普通に呼んでくれ」
『そう?じゃあ、花巻に岩泉だね』
うーん、みんないい人そうだ。
後ろで及川君が「無視とか良くないと思うな!!」とか言ってるけど、周りを見る限りこれが日常そうだ。
「よし、練習始めるぞ!」
溝口さんの声で、皆の雰囲気がガラリと変わる。……さあて。烏野が負けたという青葉城西はどんなチームかな。
*****
「どう?怜。練習に参加してみて」
『……いやあ、予想以上だな。さすが強豪と言われるだけあるわ』
練習に参加してみて分かったこと。
このチームは一人一人が考えて動けている。
常に思考することを止めないのだ。
そしてもう一つ。
『やっぱり及川君が主将ってことを実感したよ。すごいね彼は』
練習中及川君は、チームメイトに常に声をかけていた。よく見ているのだろう。
彼の指示はいつだって的確だった。そんな彼だからこそ、皆ついていくのだろうな。
「雪村、ちょっとブロック飛んでもらってもいいか?」
『もちろんいいよ、岩泉』
「悪いな。やっぱ、おまえのブロックを体験しときたくて」
『そう簡単に抜けると思うなよ?』
ニヤリと挑発するように俺は言う。
岩泉は一瞬驚いたような顔をしたが、あっちもニヤリと笑って「やってみろ」と言った。
互いにコートに入り、俺は一度深呼吸する。
今俺の目に映るのは、目の前の相手だけだ。
及川のトスが岩泉へと上がる。
俺は岩泉のスパイクモーションに合わせて飛ぶ。
ーーうん、いい感じ。
そう思った瞬間、岩泉が打ったボールは俺の手に当たり、相手コートへと落ちる。
「あ''っ!クソ!」
「へえ、やるねえ」
岩泉と及川君の視線が俺へと向けられる。
『俺の勝ちだね岩泉』
「もう一本だ!」
『オーケイ。何本でもやろう』
そうして俺たちの勝負は、溝口さんに止められるまで続いた。
*****
『いやあ、楽しかったな』
「それはよかった」
練習も終わり、俺は一静と帰る。
なかなか充実した1日だったよ。
『一静のとこもいいチームだな』
「そう?まあ悪いチームではないと思うよ」
そう言う一静はどこか照れくさそうだ。
本心ではきっとこのチームが大好きなんだろうなあ。
今日の練習で青城も面白いチームだと思ったが、やっぱり俺の一番は音駒だと実際した。
ああ、早くあっちに戻って練習したい。
「怜。今練習したいとか思っただろ」
『あれ?分かった?』
「顔に思いっきり出てるぞ」
『まじかよ』
俺ってそんなに分かりやすいのか。
『こっちにきたら俺のいるチームを紹介するな』
「おう。じゃあ、全国決めないとな」
『……そうだな』
俺たち最後の大会、春高。
青城が出るとなると烏野が負ける訳だが、こそは勝負の世界。
どちらか一方を応援することを俺はできないけど、ただ悔いが残る試合だけはして欲しくない。
『頑張ろうなお互い』
そう言って俺たちは、キラキラと星が輝く夜道を帰っていった。
もう一つの物語
(怜、岩泉からメール)
(なになに。"次は勝つ"って彼も相当な負けず嫌いだな)