日進月歩番外編

□お味はいかが?
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雪村怜と言えば?
そう聞けばほとんどの人から「いい奴」「文武両道」「頼りになる」という返事が返ってくる。
しかし、その中でも必ずと言っていいほど言われる言葉がある。
雪村怜は「味覚がおかしい」とーー。






*****








『ん〜、これもなかなかいけるな』



部活終わりの部室にて、怜は好物の飴をなめていた。
その顔はとても幸せそうで、一見美味しそうな飴なんだなと誰もが思う。
しかしそれは彼自身の味覚がそう感じさせるだけで、一般的にその飴は「不味い」という部類に入る。



「ユキ、今日は何味だ……?」

『ブルーチーズ味だよ。衛輔も食べる?』

「それだけは勘弁」



怜の味覚が変わっているのは、ある意味有名なことである。
しかもその味覚オンチは、好物の飴だけに発動されるから不思議なものだ。
過去に、彼の飴によって被害を受けた人は多数いる。
興味本位で彼の飴に触れてはいけない。それが暗黙のルールである。



「あれ?ユキさん何食べてるんですかー?」

『飴だよ。リエーフも一ついるか?』

「えっ、飴!?い、いやー俺はイイデス……。」



"飴"という単語を聞き、顔面蒼白になるリエーフ。彼もまた怜の飴によって、被害を受けた一人なのだ。
そんなリエーフの様子に怜は「そっか……」と寂しそうな表情になる。
その表情に心配した芝山が「どうしたんですか?」と怜に声をかける。



『最近、誰も俺の飴を食べなくなったよなーって思って。前まではみんな食べてくれてたのに……』


シュン……とした怜の姿に、その場にいた全員がうっ、となる。
こればかりは仕方がないのだ。
あの飴を美味しそうに食べることができるのは、怜の味覚だからなせる技である。
しかし、怜にそんな顔をさせたくない。というのが全員の思いである。
どうする?と怜以外のメンバーが顔をあわせる中、山本が動いた。



「ユキさん!俺に一つ飴くださいっス!」

『虎……?』

「ユキさんが好きなものを、俺も好きになりたいです!」


その時全員が山本に対し、"漢……!"と感じた。
それを筆頭に、犬岡、芝山、リエーフ、福永が次々と「俺も!」と手をあげる。
自分たちが慕ってやまない怜のためである。
その様子に怜はジーンと心が温かくなった。



『お前ら……!よし!とっておきのをやるからな!』



"とっておき"という言葉にうっ!となるが、怜の嬉しそうな顔をみて、何も言えなくなる。
そして山本たちの手に、一つの飴が乗せられる。
覚悟を決め、5人一緒にその飴を口に含む。



「「「「「……!?!?!?」」」」」



飴を舐めた瞬間、5人一斉に外へと飛び出した。それはもう、陸上部顔負けの速さであった。


『えっ、あいつらどうしたんだ?』

「ユキは知らなくていいことだよ」

「あいつら、ある意味尊敬するわ」


ポンッと怜の肩を叩く海の横で、黒尾が遠い目で山本たちが走って行った方向を見た。


「ねえ、ユキ虎たちに何の味渡したの……?」


小さな声で聞く弧爪に、怜はなんの戸惑いもなく答える。


『えっと、虎にはレバニラ炒め味。招平にはハバネロ味。走にはくさや味。優生はナマコ味。リエーフはアスパラガス味だ』

「それどこで売ってるの?」



飴の味を聞いた瞬間、黒尾たちの顔が引きつった。
そして山本たちに心の中で合掌した。




「「「(お前たちの勇姿は忘れない)」」」

























お味はいかが?
(研磨はいらなかったのか?)
(飴よりもユキが作ったアップルパイの方がいい)
(!そっか。じゃあ今度作ってくるな)
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