日進月歩番外編

□それはまるで
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音駒高校のバレー部に入部して一ヶ月。
先輩とか上下関係面倒くさいと思っていたが、一人だけ心を許せる先輩ができた。


『おっ、研磨!おはよ!』

「おはよユキ。朝から元気だね……」


雪村怜。
それが俺が心を許せる先輩。
他の人みたいに威圧感がなければ、先輩命令みたいなものもしない。
そんな彼に他の1年生も心を開いているようだった。



『あれ、鉄朗は?』

「忘れ物したから取りに帰るって」

『まじか。あいつ朝練間に合うのか……?』

「……何とかするんじゃない?」



こうやって気軽に話せるのも、部内じゃクロとユキだけ。
最初はクロも「あの研磨が……!」とびっくりしていたけど。
自分でもその自覚はある。
ユキは不思議な人物。
ユキが側にいると落ち着くし、心地いい。
そんなユキだから俺もきっと惹かれたんだと思う。



『そうだ!研磨に、と思って持ってきたものがあるんだ!』

「え、何……」



何かを思い出したように、鞄の中を探るユキ。
いきなり大きい声を出したからちょっとびっくりした……。
そして目当ての物を見つけたのか『あったあった』と言ってユキは、俺の前にそれを差し出した。



「……これは?」

『アップルパイ!研磨これ好物なんだろ?』

「!」



アップルパイという単語に俺は反応する。
確かに俺の好物だけどどうしてユキが知ってるのだろう。
そう疑問に思ったけど、俺の気持ちがまるでわかっているかのようにユキが答える。



『鉄朗に聞いたんだ。俺もっと研磨と仲良くなりたいと思って』

「俺と……?」

『おう!定番だけど、仲良くなるにはまず胃袋を掴むのが一番かなってな!』



そう満面の笑みで言うユキに心が温かくなる。
ユキが俺のために作ってくれた好物。
こうやってユキは簡単に人の心を掴むんだ。



「おーい!ユキ!研磨!」

『あれ鉄朗じゃん』

「追いついたね」

「間に合ったって……研磨何持ってるんだ?」

「ユキからもらったアップルパイ」

「えっ何それ。ユキ俺の分は?」

『お前にはねえよ。研磨だけだ』



「酷いな!」とクロがユキに叫ぶ。
俺にだけ。その言葉にちょっとした優越感。



「ねえユキ。また俺に作ってくれる……?」


そうユキに見上げて言えば、ユキは瞳をうるうるさせて『もちろん!』と言った。


「ユキ研磨に甘くね?」

『可愛いからいいんだよ』

「おい」



俺にとってユキが"心を許せる先輩"から"まるで兄のような存在"に変わったそんなある日のこと。
















それはまるで
(ユキが作ったアップルパイが食べたい)
(よし、なら明日作って持ってくるよ)
(研磨のユキへの懐きっぷりがやばい)
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