日進月歩番外編

□進路と部活と
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高校3年生の夏。
それは避けては通れない選択の季節である。




「……ということで、今週中に面談を行い各自の進路を決定していくぞ」

『進路、かあ……』



インハイ予選を終えた怜の次なる敵は、自分の進路であった。担任がこれからの予定を話しているが、怜の頭の中は進路と部活のことについていっぱいいっぱいだった。
多くの者は夏に部活を引退する。しかし怜は春高まで残るつもりだ。そうなれば引退の時期はもっともっと先になる。



『これは絶対、担任とバトルになるよな……』



自分の希望進路先と、部活を比べて怜は小さくため息を吐いたのであった。















*****









「まあ、俺たちは春高まで残る訳だがお前ら進路先どうした?」

『俺は進学。そういう鉄朗は?』

「俺も無難に進学」

「俺と夜久も進学だから全員、進路先は進学ってことになるな」



昼休み、怜たちバレー部の3年生だけで集まり、昼食を食べながらこれからのことを話していた。



「これから面談が控えてるけど、部活のことはぜってえ言われるんだろうな」

『避けては通れない道だからね』

「うわあ……嫌だ」

「まあまあ。しっかりと勉学と両立するっていうことを伝えたらいいと思うよ」



嫌だという雰囲気を纏う怜たちを海がなだめる。



『全員今日面談だろ?いろいろ言われると思うけど頑張ろうぜ』

「だな」

「ユキか海がか一番早く面談終わりそう」

『なんだそれ』



怜たちはハハハと笑いながら弁当を食べていく。
面談の時間まであと少し……。













*****








「おーい。黒尾、海ー」

「おう夜久。終わったのか」

「まあ、何とか。そっちは?」

「こっちも無事終わったよ。後はユキだけだね」



放課後、面談を済ませた怜以外の3年生が集まった。
3人とも部活のことについては、いろいろ言われたようだが最終的に春高まで残ることを許してもらえたようだ。



「え、ユキまだなのか?」

「ああ。今からユキの教室まで様子を見に行く」

「ユキだから心配はいらないと思うんだけど、一応ね」



どこも面談中なので、小さな声で話しながら黒尾たちは歩いていく。
怜の教室に着くと、耳を扉につけ中の様子を伺う。



「雪村、はっきりと言う。この進路でいきたいなら部活は引退するべきだ」

「「「!!」」」



中から聞こえてきた言葉に、黒尾たちは目を見開らく。
自分たちも部活ことについて言われはしたが、それはあくまで「両立」など、そこまで強くは言われなかったのだ。




『まあ、そうですよね』

「お前の成績は知っている。確かに優秀だが、部活を続けながらのこの進路は難しいどころの話しじゃないぞ」



怜の希望進学先の欄には、東京でも有名な医大の名前が書いてあった。
そして理由の欄には、「理学療法士になるため」と。



『俺にとって理学療法士は夢なんです。事故に遭ったあと、リハビリをサポートしてくださった先生たちを見て俺もこうなりたいと思いました。俺みたいな人もたくさんいるでしょうし、そんな人の力になりたいんです』

「お前の夢は分かる。先生としてはお前にその夢を叶えてもらいたい。だから部活は……」

『でも、全国大会で優勝することも俺の夢なんです』

「!」

『インハイ予選ではブランクもあって、仲間たちに迷惑をかけてしまいました。でも俺はあいつらと、今のメンバーで全国の舞台に立ちたいんです』

「……」

『先生、俺欲張りなんです。どっちの夢も諦めたくない。勉学との両立も必ずします!だからお願いします!』



教室にはシーンとした空気が広がる。
外でその会話を聞いていた黒尾たちも、真剣な顔つきである。
怜の進路先も、部活に対する想いもどれも知らなかったのだ。
黒尾たちも怜にはどちらの夢も叶えてほしい。
だがこればかりは黒尾たちにはどうすることもできない。
あとは担任の答えを待つばかりである。





「……分かった。俺だって雪村にはどちらの夢も叶えてもらいたい」

『先生!』

「だが!その道は険しいぞ。お前が部活に費やしてる時間、他の人たちは勉学に費やしているんだからな」

『わかってます。それでも俺はこの道を行きます』

「なら、後悔はするなよ」

『はい!ありがとうございます!』



『失礼します!』と言って怜は教室を出る。出た先には自分のチームメイトの姿。



『あれ?お前ら何でここに?』

「お前を待ってたんだよユキ」

『……もしかして聞いてた?』

「ごめん。ユキが遅いのが心配で」

「でも、ユキの想いが知れて良かったかな」



海の言葉に、怜は照れたような顔になる。部活への想いは嘘ではないが、本人たちに聞かれると恥ずかしいものだ。



「ぜってえ春高行くぞ」

『当たり前だろ』

「おう!」

「これから忙しくなるね」



怜は新に決意し、仲間たちが待つ体育館へと向かっていった。





そして、怜がその二つの夢を叶えるのはまた別の話ーー。


















進路と部活と
(理学療法士、かあ……)
(本城先生、どうかされましたか?)
(ううん何でも。……頑張れよ怜君)
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