日進月歩番外編
□変わらぬ関係
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ーーキュッ キュキュッ
ーードバッ ガッ
『ふう……。今日はこれぐらいにしとくか』
光太郎のスパイクに、ひたすらブロックで飛び続けた俺。
時計を見ればそれなりの時間になっていた。
これ以上やると、飯の時間がなくなるよな。
それに、膝もそろそろ気を付けた方がいいからな……。
「何ー!?まだまだこれからだろ!」
『いやいや、時計見てみろ。飯食う時間なくなるぞ』
これだけ動いて飯抜きとか死ぬ。明日絶対倒れる。
そしたら鉄朗たちにまた説教される。
赤葦に目を向けると、彼の目は「飯抜きとか本当に嫌ですよ」と木兎に訴えていた。
「それじゃあ仕方ねえな。よしっ、飯行くぞ赤葦、怜!」
「はいはい、今行きますよ木兎さん」
ため息を一つ吐いて、光太郎の後ろを歩いていく赤葦に同情する。
大変だな、赤葦も……。
「怜ー!早く来いよ!」
『わかってるって』
光太郎に急かされ、俺も体育館を出た。
*****
俺と光太郎、赤葦とで食堂へと向かう。その途中、珍しく赤葦から俺に話しかけてきた。
「今日、初めて雪村さんのブロック見ましたけど凄いですね」
『そうか?』
「はい。あれだけ木兎さんのスパイクを止める人は初めてです」
赤葦のその言葉に、少し照れくさくなる。自分のプレーを褒めてもらえることは素直に嬉しいのだ。
「だから言ったろ赤葦!怜のブロックはスゲーって」
「そうですね。さすがW蒼壁Wです」
横でワハハと笑っている木兎に、赤葦は同意する。
っていうか、W蒼壁Wをお前まで知ってるのかよ赤葦。
俺はポリポリと頬をかく。
俺、そのW蒼壁Wっていうあだ名に慣れていないんだよなあ。
壁とか最早人間じゃねえし。
何か由来があるとか鉄朗たちが言っていたけど、なんだっけ……?
まあ、結論を言うとW蒼壁Wというあだ名は俺は好きではないのだ。
「赤葦も怜の凄さがわかったか!何と言っても俺のライバルだからな怜は!」
『!』
嬉しそうに言う光太郎に、俺は目を合わせることができなかった。
光太郎は俺のことをまだ、そんな風に見ていてくれたのか。
でも、俺は……。
食堂へと歩いていた足を止め、自身の膝を見る。
急に止まった俺に、光太郎と赤葦が不思議そうな顔をする。
『俺はもう、お前と最初から最後まで戦うことができない』
光太郎の目が見開かれたのが見えた。
お前と競い合いたくても、この膝では満足に戦えない。
バレーの試合に制限時間がなくても、俺自身にはタイムリミットがある。
シーンとした空気の中、光太郎が口を開く。
「確かに、怜と戦える時間は短くなった。でも、そんなの関係ねえよ」
『!』
バッと顔を上げ、光太郎を見る。
そこには真剣な顔をして俺を見る光太郎の姿。
そして何時もの無邪気な顔に戻って言った。
「怜はもう一度、コートに戻ってきてくれた。それで充分だ!俺をワクワクさせてくれるブロッカーはお前だけだからな!」
「そうですよ。木兎さん、雪村さんと対時しているとき笑顔ですからね。……最初は遂に頭が、って思いましたが」
「ヒドイな赤葦!」
前でワーワー言っている木兎と、それを宥める赤葦の姿に自然と表情が緩む。
そうか。光太郎、お前をワクワクさせるブロッカーは俺だけなんだな。
それは、俺だって同じだよ。
『俺だって、ワクワクさせてくれるスパイカーは光太郎だけだよ』
前で騒いでいた光太郎の動きが、ピタッと止まる。
本当のことだよ光太郎。
いつだってお前のスパイクを止めるのは、俺だっ!って思ってる。
だからーー。
『負けねえよライバル』
「!俺だって負けねえぜ、ライバル」
変わらぬ関係
(俺はライバルであり続けるよ)
(この先もずっと)