with幻影旅団 イルミside
□平凡で退屈
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『じゃあね、バイバイ』
正門で友人に別れを告げて車に乗り込む。
「お嬢様、今夜は政治家の方々が来られる日です。早めに降りて来るよう、とのことです。」
『…うん。』
冴えない返事を気にすることなくきれいに磨かれた高級車が街中をかけていった。
誰も私を必要としているのではない。
父の名誉、地位、金。それを継ぐ“物”としての存在。それだけが人々の視界に映る私という人間だ。
これくらい、幼い頃からなれているのに、なぜか今日はいっそう悲しく虚しく感じた。
父「名無しさん、おかえり。」
『お父様、只今帰りました。』
父は目元にシワを作り笑っていた。
父は私のことを大切に思ってくれている。
だからこそ辛いのだ。誰に当たることもできない。
その笑顔が、優しさが辛い。
父「さあ、早く着替えてきなさい。」
父に促されるまま更衣室に向かい、用意されていたドレスを身にまとった。
「お嬢様、とってもお似合いです。」
『ありがとう。』
少しぎこちない笑いを見せると緊張していると思ったのかメイド達に励まされた。
私はただ、限界だった。
重い荷物だけが、なにも解決しないまま積み上がっていくことが。
後継者として無機質な箱に閉じ込められるような気がして。
クラッ
「お嬢様!?」
『っ大丈夫、ちょっとつまずいただけ』
どうしたんだろう、目の前がゆがむ。
今日はこれが終わったら早く寝よう。
明日も学校なんだから。
○○○○
父「えー、それでは、今日は皆様に私の1人しかいない大切な愛娘を紹介しようと思う。」
壇上に上がると一方的な疎外感を感じた。
欲に目の眩んだ眼差しだけが私を刺すように見ている。
これだから…
思わず溜息をつきそうになり飲み込む。
『はじめまして、神童名無しさんと申します。この度は−−−−−−−−』
この時はまだ、この日常が退屈な毎日となって続いていくと思っていた。