with幻影旅団 イルミside
□身体の痕
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「イルミ、アレは早めに捨てておけ。」
男の父と思わしき人物が名無しさんのいる部屋を指していった。
「ああ。」
男は忘れてた、とでも言うように手をポン、と叩いた。
名無しさんがあの部屋に閉じ込められてから2日経った日の話だった。
○○○○
ガチャ
床は赤黒い血が張っていて歩くたびにピチャピチャと音がする。
身体には皮膚を見ることもできないほどにナイフが突き刺さっていた。それと同様に床にも何百本ものナイフがもの悲しげに落ちていた。
「…うーん、やっぱり中々の治癒能力だね。」
動かなくなり腐ったであろう遺体の鎖を取りながらそんなことを言う。
数百ものナイフを身体で受け止めその数百ものナイフの傷を治したのだから上出来中の上出来だろう。けれど死んでしまっては意味がない。
「ナイフもったいないなあ。」
男は名無しさんに刺さった50本ほどのナイフを見てそう呟いた。
そうしてやはりもったいないと感じたのか一本を引き抜く。
『ッ…』
「…。」
男は大きな眼をさらに大きく開いた。
抜いた傷口からは血がだらだらと出ていく。その傷をもうないであろう念が薄っすらとだけ纏う。
「生きてたんだ。しぶといね。」
男はすぐに冷静になると次々とナイフを外していった。
『ァッ…ァ』
声にならない声を上げる名無しさんの身体は紅い色で染まっていた。目に生気は感じられなかった。
けれど無意識に伸ばす手。
それはゆっくりとナイフを引き抜く男の腕を掴んでいた。