with幻影旅団 イルミside
□初夜の温度
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お風呂上がりのイルミが布団の中で静かに目を閉じる。
そのベッドの横の床で思わず正座をする名無しさん。
この17年間男の人と2時間以上一緒にいることなどなかった。それなのに途端すぐ傍で眠りだす彼。
人生初めての現象に目を丸くしてみていることしかできない。
一人娘だということもあり父には男性といることは固く禁じられてきた。
だからずっとイルミのことは髪も長いし女の人だと思って接してきた。
けれど、お風呂上がりにあんな上半身を見せられては未だ動機が収まらない。
学校のスケッチで書いた像とはだいぶ違う…。
ああ!なにを思い出してるのよ自分!!しっかり!我を見失わないで名無しさん!!
「君、そこで寝るつもり?」
頭上から声が降ってくる。
顔を上げるとベッドの上から髪を結いたイルミさんの整った顔がこちらを見ていた。
『っはい、あの、私がいた世界では地べたで寝るのが習慣だったもので。』
適当な嘘をついてこの場をどうにかやり遂げようとする。
床を見ながら無心で言葉を連ねているとグンと重力に逆らう感覚に包まれる。
そのあとに柔らかいベッドの感覚が肌を撫でた。
「汚いからここではやめてくれる?」
グサリ
真顔で言われ私も開いた口がふさがらない。
どうにもこの人には優しさというものが欠けているようだ。
『す、すみません。』
社長令嬢という肩書きを背負っていた私が何故こんな屈辱的な目に…。
ゆっくりと布団に入り端のギリギリまでいく。
神様私はとても忌まわしい行動をとっております。どうかお許しください。この淫らな私めをどうか、どうかお許しください。
手を合わせ布団の中で必死に祈る。
けれどその固く合わされた両手はいとも簡単に解かされた。
イルミの手によって。
『わっ!』
右手を強く引かれたかと思うと目の前には天井、そしてイルミ。
鎖同士が擦り合う音だけが部屋に鳴り響く。
「オーラが乱れてたけど、もしかして欲求不満?」
私の上に馬乗りになる彼の目が痛々しく私を刺した。
『ちっ、違います!あの、退いてくださいっ。』
Vネックの上には男性特有の喉仏、浮き出る鎖骨。
全てが初めてで顔に熱が集中する。
「もしかして、男と寝るの、初めて?」