with幻影旅団 イルミside
□奇術師の思惑
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朝目を覚ますと空はまだくすんだ青色で、
部屋の時計は5:05を指していた。
ちらりと彼を盗み見るとまだ大きな瞳を閉じたままだった。
『そっか、まだ寝てていいんだ。』
自嘲気味にため息を吐くとまたもそもそと布団の中に入った。
今まで厳しい家庭で育ってきて5時起床をこの年まで続けてきたのだ。
けれど一度目が覚めればそう簡単に寝れはしなかった。
シャキリとした視界には森の木がザワザワと揺れている映像がいつもの何倍もよく見えた。
いまごろ父上はどうしているだろうか。
厳しかったもののいつも優しく私に向かい合ってくれた。決して悪い人ではない。
ただあの日常に飽きていたのだ。
けれど今となってはそんな日常がとても懐かしく大切な場所ではないかとあの時の自分を叱りたくなる。
鼻がツンとする感覚と同時に涙が溜まっていく感覚がした。
そもそもここで私が“2人”を助けたところで私はどうなるのか。
あちらの世界には戻れずあの世へと連れ去られるのだろうか。
もう父上には会えないのだろうか。
クラスメイトともお世話になった周りの人たちとも…もう、あれで最後だったのか…。
『…っぅ』
思わず声が漏れそうになる。
自分はこれほど弱い人間だったのかと呆れた。
1人じゃ何も出来てないじゃない…。
木がザワザワと心の中を表していた。
「真横で啜り泣かれたら迷惑なんだけど。」
突然横から抑揚のない不機嫌な声が聞こえた。
『っ!すいません…。』
驚きのあまり涙はスッとひいた。
いや、驚きよりも、泣いていたことがばれた恥ずかしさからだろうか。
わたしは何度この人の前ではじをかけばいいのか…。
『あの、…』
「なに。」
寂しさからか、なんなのかはわからないが自然と彼に声をかけていた。
『私は元の世界に戻れるでしょうか。』
そんなことイルミが知るはずもないのに不安を紛らわすために口走っていた。
「は?何言ってんの?」
するとやはり、というべきか、そんなこと知るかとでも言いたげな声が返ってきた。
「名無しさんに元の世界に帰られたらその治癒能力の念が使えなくなる。」
『はい?』
あまりにも拍子抜けな答えに彼の方を振り返る。
すると大きな目に間抜けな顔をした私が写っていた。
「俺は返すつもりはないよ。じゃないとわざわざ鎖で繋いだりなんてしない。」
もっともな答えだがなんと自分勝手な人なんだと言ってやりたくなる。
『私は絶対に帰ってみせます!!』
プイッと窓側に寝返りをうち強く目を瞑った。
それからはイルミも何も発することはなく私はいつの間にかまた夢の中にいた。