話
□交錯する思惑
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自室の卓の上。その目前にある卵を撫でる様に指で触れると、ユキナはひとつ息を吐いた。
あの後、結局マツバの元へ挑戦者が来たのでそのままエンジュを後にした。
聞いた話ではこの卵は、何のポケモンか誰にもわからないと言う。
エンジュのスズの塔に突然現れた。
マツバはそう言うとユキナを見詰めた。もし卵がかえったら僕にも見せてくれと、柔らかい印象の瞳を更に弛めて、そう伝えてきた。
「・・お前は何て名前なんだろうね。」
結局卵の情報は何も分からず仕舞い。ユキナは卵に語りかけるように声を掛けた。
「ユキナ、ちょっといい?」
その時戸口の先からハルの声を受ける。
ユキナは卵に向けている指を引いた。
「ハル。どうかした?」
戸口へ向かい声を掛けると、静かに戸が開かれる。ハルは腕に抱えたそれをユキナの前にひとつ差し出すと、嬉しそうに微笑む。
「また見つけちゃった。」
「本当にハルはこれが好きなのね。」
ユキナは受け取った先の色彩に目を向ける。視線を感じてハルに向き直すと悪戯な笑みを浮かべて此方を見ていた。
「こうして見ると、やっぱりユキナの髪の色とそっくりね。」
「そうなの?」
さして興味の無い様に返事を返すと、ユキナはそれを指先でくるくると回した。
「これをタンバの薬屋さんが届けて欲しいんですって。」
届いた依頼書をユキナに手渡すと、ハルは卵に目を向けた。
「ついでに一緒にお出掛けでもしたら?」
「タンバまでは遠いわよ?」
ユキナは眼を瞬くと、困った様に眉を寄せた。
「あら、海の町までいくにはギャラドスも使うでしょう?卵は元気なポケモンと一緒の方がいいわ。」
渋い顔のユキナにふふっと柔らかく微笑むと、ハルは腕に抱えた依頼物をユキナに手渡す。
タンバは海を隔てた先の町。
ここから経由先のアサギの町に向かうまで、山沿いの獣道から抜ければ1時間弱と行ったところ。
「・・依頼を済ませたらまた連絡するわ。」
何時もの様にジャケットに袖を通すと、ユキナはポーチに卵をしまい込んだ。行ってらっしゃいというハルの声を背に戸口を抜ける。今朝方から羽を伸ばしているであろう、相棒を向かえに屋敷を後にした。