□新たな火種
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タンバへの道程を越え辿り着いた庭先で、ユキナは見慣れた屋敷を探るように見詰めていた。
先に受けたハルの言葉を思い返しながら、静かに控えた従者の元へ足を進める。

「ハルはいるか?」
「はい。ユキナ様の自室にてお待ちになられております。」
「わかった。直ぐに向かう。」

借宿として使う部屋と離れるように作られている隠し通路を通り、ユキナは自室の戸を開いた。部屋の中で座っていたハルがその顔を向けると、浮かべる表情はひどく険しい。

「状況は?」

直ぐ様戸を閉めハルの元に向かうユキナは、幼馴染みの稀な表情をじっと見詰めた。

「名前と旅をしていること、その途中で雪菜を見付けたこと、そして明日の朝怒りの湖に向かうことはわかったわ。全部嘘かもしれないけど。」

「随分と手を焼かされているみたいね。」

険しく眉を潜めるハルは、卓の上に立てた腕に寄りかかるように頬を手のひらに乗せている。不機嫌な様を露骨に表すハルに、ユキナは相手が一枚上手であったことを察する。

「・・あまり関わらない方がいいわ。」

ふと溢したハルの言葉に、ユキナは引っ掛かりを感じた。

「どういうこと?」
「見透かすような視線なの。下手に動くとまずいわ。」

嫌悪を露にした表情を強くすると、ハルはユキナを見詰めた。表情とは違い、どことなく悲しげな色を移す瞳が瞬く。
「何だか嫌な気分だわ。」
「どうしたのよ、ハルらしくないわね。」
「よく分からないけど、何かしらね。」

ぽつりぽつりと、浮かぶ感情を言葉にするハルの様子に首を傾げた。ユキナは静かに踵を返すと、そっと戸に手を掛ける。

「そいつの名前は?」

ユキナの言葉にはっとしたように振り返ったハルは、険しかった表情を驚きに染めた。

「会いに行くつもり?」
「まさか。一目見るだけよ。」

すっと天井を指差すユキナに事の次第を把握すると、ハルは安心した様に胸を撫で下ろした。当主の問い掛けに応じる為、仕方なく口を開く。

「・・ワタルですって。」

忌々し気に放たれた名前を頭に刻み込む。どうにも様子のおかしい幼馴染みを気に掛けるが、ユキナは目的の場所へ向かう為にそっと自室の戸を閉じた。
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