□聞こえる胎動
1ページ/7ページ


「ユキナ!」

帰りの遅い当主が漸く自室へと戻って来ると、ハルは勢い良く走り寄った。
琥珀色の瞳が心配を滲ませユキナを見詰める。

「私達の杞憂だったみたいね。」
「どういう・・」

続く言葉を発する前に、ユキナの後ろに立っている人物に気が付いた。ハルは驚きに言葉を呑み、唖然と瞳を見開いた。

「貴方・・。ワタルって、あの・・」

先刻とは違い隠された素顔が露になった青年は、紅い髪と金色の鋭い瞳を携えている。記憶していた人物と同じ容姿の青年にハルは瞳を瞬かせた。

「偽る様な真似をしてすまなかった。」
「ドラゴン使いのワタル・・」

ハルは驚きを隠せない様で、暫くそのまま視線を動かすことが出来ない。やっとの思いで視線を動かし見詰めたユキナの表情に、ハルはまたその顔に驚きを浮かべた。

「ユキナまさか、知らなかったの?」

不思議そうに瞬く蒼い瞳が、ワタルとハルを交互に見詰めている。一気に張り詰めた力が抜けたハルは、その身を座敷へと沈めるように座り込んだ。
ユキナの様子に苦笑を浮かべたワタルは溜め息をつく。

「変装する必要がない相手に会うのは久し振りだった、あれだけ顔を見られていたのに。」
「何の話だ。」

依然話の掴めていないユキナは眉を潜める。ハルは掌で顔を覆うと盛大に溜め息を漏らした。

「貴方ぐらいよ、この人を知らないのは。ドラゴン使いのワタル、ポケモンリーグチャンピオンのことよ!」
「そうなのか?」
「・・改めて聞かれると気恥ずかしいな。」

何ともちぐはぐな空気にハルは眉を吊り上げると、勢い良く立ち上がり二人を睨み付ける。勢いを堪えるようなハルの表情に、二人は間の抜けた視線を向けた。

「どういうことなのか説明して貰います!」

憤怒を露にした穏やかな容姿の娘に驚いたワタルとは対照的に、ユキナは未だに間の抜けた表情のままだった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ