□しのび寄る刃
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コガネの街はジョウト地方で最も栄える巨大な街だ。街を走るリニアはカントー地方へと繋がっており、様々な情報や人の行き交う都市の連絡口。
比較的昔からの町並みや風習を残したジョウトの中では、最新の文化を生み出す先端の都市だ。

「潜伏には持ってこいというわけだな・・ワタル、奴等の拠点の場所はわかっているのか?」

ワタルと合流したのが先刻。
彼が一足先に押さえたホテルの窓から、早朝の人の疎らな外の街並みを眺めていたユキナが口を開いた。

「ああ。街の北東にある路地の先に小さな店がある。そこで取引をしているようだ。これがその地図だ。」
「ああ。」
「しかし・・」
「ワタルは顔を知られ過ぎている。今回の奴等は恐らく前と同じで末端の者だ。潜入は最後の頭を取る時でいい。」

ユキナは暫く街の地図を眺めると、それを懐へしまった。

「連絡方法はさっき伝えた通りに行う。ワタルも、何か新しい情報が入れば連絡を頼む。」
「ああ、わかった。」

互いに言葉少なに話を終えると、ユキナは街へと向かう為扉へと向かった。ノブに手が触れた時、その背に再び声が掛かる。

「くれぐれも無茶はするな。」

真剣な表情に滲むワタルの思いに頷く。ユキナは今度こそ、身を翻すように扉の先へ消えた。
閉まる音が部屋に響くと、ワタルは息をついた。信頼して任せているとはいえ、初めて互いに向かう仕事。あらゆる事態を想定し、対応を考えておく必要がある。厳しく眉根を寄せたワタルに、ふいに小さな声が掛けられた。

「・・ああ、お前も心配しているんだな。」

ソファに座る白い小さな体が鳴き声と共に揺れる。ワタルはその横に腰を下ろすと、トゲのついた頭を撫でた。

「ここで待つことも大切な仕事だ。一緒にユキナを待とう。」

ワタルが穏やかに声を掛けると、トゲピーは理解を表し頷いてみせた。
どうしても付いていくと聞かなかったと、ユキナがトゲピーを預けた。これからは任務に連れていけない。恐らくロケット団が絡む巨大な組織。どこから情報が漏れるかわからない為、希少なトゲピーを連れていては目立ちすぎてしまう。
そう任せたユキナはひとり、標的の元へ向かっている。

「今は待つことが、俺達の出来ることだ。」

ワタルは自身に言い聞かせるようにそう呟いた。
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