サクラノ記憶

□桜が一枚
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文久三年。


京の街にはしんしんと雪が散らついており寒々しい街は静寂に包まれていた。

そんな物静かな町並みの中で必死に逃げ廻っている少女が一人。





「..ッ..ハァッ...ハッ.......」










数人の浪士から追い掛け回されやっと見つけた隠れ場所。
浪士が段々と近づいてくる。
その声と足音にガタガタと体を震わせる。

















見つかる。


そう思った瞬間だった。























「うわぁ!!!」




ザッ!!ザクッ!!




肉を切り刻む音が、血が飛び散る音が響く。


そして聞こえてきたのは異様な奇声。




「ヒャハハハハハハハ!!」
「血だ......血だぁ....」








恐る恐る見てみれば刀を笑いながら
何度も何度も倒れる浪士に埋め込んで、殺すことに歓喜している悍ましい光景。
月に照らされた白く不気味に光る白髪。
そして、こちらを映した紅蓮の瞳。




少女をとらえた瞳はこちらに近づいてくる。




逃げなければと分かっているのに恐怖で体が動かない。







紅蓮の瞳が刀を振り上げた瞬間。









「.....っぐ......」









心臓に突き立てられた刀。

紅蓮の瞳は光を亡くし力無く倒れこんだ。












「ヒャハハハハハハハッ!!」

その出来事に気がついた4つの紅蓮。




「血をよこせぇっ!!!」







『....チッ.....』








ザッ!ザッ!!




バッと飛び出た紅蓮をあっと言う間に倒してしまった人物。
その姿は影になっていて確認できない。

暗い人物像は一歩一歩少女に近づいてくる。
何をされるのかと少女の体は自然と強張る。
目の前まで来たその人物。




『無事か女』











影で隠れていた姿は月に照らせれて明らかになる。

綺麗な漆黒の髪が月の光で光沢が増す。


その顔は恐ろしいほどに整っていた。


白い肌に返り血を浴びせているのに物動じていない表情。

白い雪とのコントラストがまたその美しさを引き立たせる。






少女は思わず目を奪われた。







「......貴方は.....」



『.........話は後だ』






「え?」






『客だ』






















「.....動くな」



白い首に背後から突き立てられたギラッと光る刀。



「刀を置け」







言う通りに腰に挿している二本の刀を地面に落とす。









「こちらを向け」






指示されたとおりに背後を振り返る。


刀を突き立てる人物は髪で隠れていない方の眼でこちらを睨みつける。









「....お前は何者だ」


『......』









「あーあ、残念だな....
僕一人で始末しちゃうつもりだったのに。
斎藤君、こんな時に限って仕事が早いよね」







物陰から突然、言葉とは裏腹に楽しそうな声色で話しかけてきた人物。





「違う、俺ではない」


「え?じゃあ誰が殺ったってゆうのさ」





「こいつだ」







視線を動かしてみれば笑顔を崩さないその表情がこちらをじっくりと見る。






「へぇ、この子が?まさか君一人でこいつらを殺しちゃったわけ?」






『問題あったか』








「問題だよねこれは
どうする気?斉藤君」










「あの人の指示を仰ぐ
この判断は俺達が下すべきものではない」









「まぁ、そうなっちゃうか、目撃者はどうやら一人じゃないようだし」








そして不意に、ふっと影が差した。










こちらに刀を向け鋭い眼光で睨みつけるなびく漆黒の髪に思わず息を呑む。
















「......運のない奴等だ」












そう言った言葉はあまりにも冷たい氷のよう。
こちらを殺そうとしている瞳には僅かな揺らぎが見える。












「いいか、逃げるなよ。

背を向ければ斬る」




こくりと頷けば更に深く眉間に皺を寄せて苦々しげに深く溜息をついた。










「.....え?」

『......』


奴は刀を鞘に納めた。
あっさりと刀を納めたことに驚きを隠せなかったのはへたりこんでいる女だけではなかった。







「あれ?いいんですか土方さん
この子らさっきの見ちゃったんですよ?」






「....いちいち余計な事喋るんじゃねぇよ

下手な話を聞かせちまうと、始末せざるを得なくなっちまうだろうが」










『......』








「この子らを生かしておいても、厄介なことにしかならないと思いますけどね」






「とにかく殺せばいいってもんじゃねえだろ、こいつらの処分は、帰ってから決める」









「俺は副長の判断に賛成です。
長く留まれば他の人間に見つかるかもしれない」





そう言ったそいつは殺された死体を見つめる。






「こうも血に狂うとは、実務に使える代物ではありませんね」



「....頭の痛え話だ。まさか、ここまでひどいとはな」



『........』






聞かれたくない話を堂々とするな。

そう、言いたかった。







「つーか、お前ら、土方とか副長とか呼んでんじゃねえよ、伏せろ」



「ええー?伏せるも何も、隊服着てる時点でバレバレだと思いますけど」





よく見てみれば浅葱色の着物を羽織る彼ら。







『......そうか』






「ん?何?」



『......別に』


余計な事は言わないほうが身のためだ。





「....死体の処理は如何様に?

肉体的な異常は特に現れていないようですが」


声をかけられた男は短い思案を挟んだあとに口を開く。








「羽織だけ脱がせとけ

.....後は山崎君が何とかしてくれんだろ」




「御意」


「隊士が斬り殺されてるなんて、僕たちにとっても一大事ですしね」






くすくすと笑う男にそいつもまた同意して

「ま、後は俺らが黙ってりゃ、世間も勝手に納得してくれるだろうよ」









.....今の言葉は俺達への圧力。






「ねぇ、ところでさ、助けてあげたのに、お礼の一つもないの?」





『.....あ?』



「え?

....そんな助けてあげたのにって」




「君たち、本当はここで殺されたかもしれないんだよ?」











『....この先はまだ分かんねえだろうが』








「へぇ、この状況で強気な発言ができるなんて流石こいつら殺しちゃうだけのことはあるね」



珍しい物でも見るような楽しげな顔に苛立ちを覚えたが表情には出さなかった。







「ぐだぐだやってんじゃねえよ、さっさと帰るぞ」


そして俺達はこいつらに連行され屯所に連れて来られた。
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