サクラノ記憶

□桜が一枚
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今宵桜の下でキミを


□静寂を包む月
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翌朝。




とある部屋に押し込められた俺達。
体はきつく縄で縛られ、刀は没収された。
そんな状況で寝れる訳もなくただ朝が来るのを待っていた。

もう一人の女はぐっすり寝たみたいだが。



「........ん....?」





『起きたか女』











「あ、......おはようございます」


『あぁ』









「.........全部、悪い夢なら良かったのにな」






こんな女が巻き込まれたのならそう思うだろうな普通。



ここが、新選組の本拠地なんだから尚更。
俺の場合ここに目的があった為、手っ取り早かったが。





「私達、どうなっちゃうんでしょう」

『さぁな』





女がため息を吐いたその時。
ガラッとふすまが開かれ、人の良さそうなじじいが顔を出した。






「ああ、目が覚めたかい」



井上と名乗ったそいつは俺達の縄を緩めてくれた。
手の縄だけは解きはしなかったが。






「えと、あの、ありがとうございます」




井「ちょっと来てくれるかい」


「え?」


井「今朝から幹部連中であんたらについて話し合ってるんだが
あんたらが何を見たのか確かめておきたいって話になってね」






「....わかりました」

『.....』







頷いて、俺達はゆっくり立ち上がった。

強張る女の表情に井上も気づいたらしく優しい声色で女に言った。



井「心配しなくても大丈夫だ、
なりは怖いが、気のいい奴らだよ」


「はぁ.....」





井上の後ろを俺達は着いて行き、ひとつの部屋に通される。



通された部屋では新選組の幹部共が俺達を待っていた。
突き刺すような視線が一斉に向けられる。
女はそれに身を固くした。






『....力を抜け、ボロが出るぞ』

「え?」






小声で耳打ちしてやれば少しだけ固くなった体は先程のように戻ったようだ。


「おはよう、昨日はよく眠れた?」






声をかけてきたのは沖田という男。



先程、井上からそれとなく教えられたので名前は覚えた。






「....寝心地は、あんまり良くなかったです」





沖「ふうん、そうなんだ?」

沖田はにやにやとしながら女の顔を見る。





沖「さっき僕が声をかけた時には君、全然起きてくれなかったけど?」


いつお前が部屋に来たんだ。
起きていたから誰も部屋に来ていないことはわかる。




愕然とする女を見て、斉藤という男が呆れてため息をつく。




斉「....からからわれているだけだ。
総司はお前らの部屋になんか行っちゃいない」





沖「もう少し、君の反応を見たかったんだけどな。

一君もひどいよね、勝手にバラすなんてさ」




「ひどいのは斉藤さんじゃなくて沖田さんの方だと思いますけど?」






沖「そっちの君は?どうだった?」


『寝てない』




沖「そっか、怖くて眠れなかったんだ?」



『違う』



くすくすと笑う沖田。
こいつは嫌いだ....。






「....おい、てめぇら。
無駄口ばっか叩いてんじゃねぇよ」


こいつが新選組副長の土方。
土方の呆れ返った声が響いて沖田は口をつぐむ。
















「でさ、土方さん....そいつらがあいつら殺した目撃者?」


幹部の中でも若いチビ。
年寄りばかりじゃなかったんだな。





こちらを睨みつける三人の幹部は不良のような雰囲気を持っている。



「ちっちゃいし細っこいなぁ、まだガキじゃん、こいつら」







お前にガキとか言われる筋合いねぇよ。


こいつが藤堂.....。
新選組最年少の幹部。
.........へぇ。



「お前がガキとか言うなよ平助」

観察するように見ていたコイツ、原田か。






「だな。世間様から見りゃ、お前もこいつらと似たようなもんだろうよ」


無駄にガタイのいい男で、無駄に神妙な面持ちで頷くこいつが永倉。







藤「うるさいなぁ、おじさん二人は黙ってなよ」




永「ふざけんなよ、このお坊ちゃまが!俺らにそんな口聞いて良いと思ってんのか?」


原「平助におじさん呼ばわりされるほど、歳食ってねぇよ。
新八はともかく俺はな」





永「てめぇ、裏切るのか、左之」



籐「へへーん、新八っつぁん
図星されて怒るなんて大人げねぇよなぁ」








こいつら.....。
冗談まじりの口調で言い合いしてても好奇を含んだ視線はずっと俺らに向けたまま。
そして、強い敵意が混じっているのも確かだ。






「口さがない方ばかりで申し訳ありません。あまり、怖がらないでくださいね」


眼鏡をかけたコイツが総長の山南。





「あ....」


優しい声色に女は少し気を楽にしたようだ。








「ああ、自己紹介が遅れたな、

俺が新選組局長、近藤勇だ」


この人が良さそうな奴が局長なのか。

.........こいつが。





















近「さて、本題に入ろう

まずは改めて、昨晩の話を聞かせてくれるか」







近藤の発言に斉藤が説明し始める。






斉「昨晩、京の都を巡回中に浮浪の浪士と遭遇。相手が刀を抜いたため、斬り合いとなりました。

隊士らは浪士を無力化しましたが、その折彼らが失敗した様子を目撃されています」





ちらっとこちらに斉藤が視線を向ける。


「私、何も見てません」




そう言い切った女に土方は表情を少し和らげる。








籐「なぁ、おまえ、本当に何も見てないのか?」



「見てません」






『こいつはずっと身を隠していたし、あそこは死角で何も見える筈がない』





身を乗り出して来た藤堂の質問にも女は同じ返答をしたため、俺もそれに加勢する。









籐「ふーーん、見てないならいいんだけどさ」






永「あれ?総司の話では、お前が隊士共を助けてくれたって話だったが」










「ち、違います!

…私はその浪士たちから逃げていてそこに新選組の人たちが来て....
だから私が助けてもらったようなものです」



.........馬鹿野郎。







永「じゃ、隊士共が浪士を斬り殺してる場面はしっかり見ちゃったって訳だな」







「!!!」



誘導尋問だ。








原「つまり最初から最後まで、一部始終を見てたってことか」



「.....っ」







困惑の表情を浮かべる女。
このままでは逃げ場がない。







原「おまえ、根が素直なんだろうな、それ自体は悪いことじゃないんだろうが」





女の発言にこの場が一気に緊張感が増す。









『....一つ聞きたい』







原「何だ?」








『俺には、こいつが隊士を見ただけでここまで深刻になる必要を感じない。


噂では、新選組っていうのは無差別な人斬り集団だと聞いた、

昨日の隊士達は浪士を発見し殺し、こいつを見つけたが浪士だと勘違いしてこいつを殺そうとした。
全部見ていた俺はこいつが殺されないように逆に隊士達を殺した』










土「.....それだけの事と言いてえのか?」









『あぁそうだ、非があるのは確認もせず斬りかかった隊士達とそいつらを殺した俺だけだろう』







「....っでも!」

『てめぇは黙ってろ、死にてぇのか』




「.........っ」






山「確かにそうかもしれないですが、
でも我々が血に狂ってるなんて言い広められるのは困るんですよ」







「私、誰にも言いませんから!」










山「偶然、浪士に絡まれていた君と貴方が敵側の人間だとまでは言いませんが、


君に言うつもりがなくとも、相手の誘導尋問に乗せられる可能性はある」







「う....」



『チッ』






こいつ、裏をかいてきやがった。







斉「話さないというのは簡単だが、こいつが新選組に義理立てする理由もない」







沖「約束を破らない保証なんて無いですし、やっぱり解放するのは難しいですよねぇ」







「......」


『........』



沖「ほら、やっぱり殺しちゃいましょうよ
口封じするなら、それが一番じゃないですか」






「そんな!!」







女が悲鳴じみた声を上げれば近藤が沖田をたしなめる。








近「総司、物騒な事を言うな
お上の民を無闇に殺して何とする」


沖「そんな顔しないでくださいよ
今のは、ただの冗談ですから」





斉「冗談に聞こえる冗談を言え」
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