【Escapism】
□愛なんて所詮
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「…ただいま」
「おいおい、迎えに行くって言ったろ」
「…」
「遅くまで仕事残ってやってるって言ってたから迎えに行ったのに」
「…悪いかと思って」
「迎えに行かせてくれない方が悪い。おかえり、遅くまでお疲れ様」
「う、ごめん、なさい」
「うちのなまえは頑張り屋だねぇ。頑張り屋すぎて困っちゃう」
「…」
「先に風呂入るー?ご飯食べる?」
「…」
「なまえ?」
「…もう」
「ん?」
「…終わりに、しませんか」
「え、何を…」
「…付き合うの」
「…何で」
「…」
「ほら、とりあえずコートと鞄貸して、」
「…無理です」
「何でだよ。それくらい、いーだろ」
「…無理、なんです、もう」
「…どーしたんだよ」
「そうやって三木さんが優しくしてくれる度に辛くて辛くて、私、三木さんに何にも出来てないのに…。せっかく会えるって時間作ってくれてるのに、急な残業で約束すっぽかしたり…休みの日が珍しく合っても結局出勤になっちゃったり…私本当に何にも出来てない…!三木さんの時間を無駄にしてるだけです…。私、最低です、疲れてるからって、自分の、こ、事しか、かんが、考えてない」
「…」
「もう、耐えられ…ない」
「…だからもう別れたいってか。随分自分勝手だな」
「…っ、はい」
「…そーかよ」
「…」
「…」
「…」
「…そんなにお前が勝手なら俺も好きにさせてもらうわ」
「!!」
「…」
「なんで、キス、して…」
「言っただろ?勝手にするって。お前が勝手だって言うなら、俺も勝手にお前の傍にいる。文句ないよな?」
「な、んで…っなんで!!」
「おーおー怒らない。涙でぐちゃぐちゃだぞ」
「な、んで、どうして…」
「いいか、お前は疲れてるんだ。会社であんなに頑張って、しかも回りに死ぬほど気を遣ってるのに、俺にまで気を遣うことはない。俺の前でくらい気を抜いてくれよ、パンクしちまう」
「っふ、う…」
「疲れて心がささくれてるんだよ、よしよし」
「っ…だめ、です」
「俺の愛が伝わらないね〜。こんなに愛してるのに…」
「…きっと、そ、そのうち、私のことが嫌になって、」
「ならない」
「どうして、言い切れるん、ですか」
「愛があるから?」
「…あ、い、なんて、きっとすぐ…愛、なんてしょ、所詮、」
「言うねえ。愛なんて所詮、何だよ」
「…愛、なんて所詮、」
「やめた。喋らしてやんねー。お前は愛なんて所詮綺麗事だなんだって言いたいのかもしんねーけど。だから何だよ、俺の本心だ。そればっかりはお前に決められることじゃねえ」
「…っ」
「俺の事を思ってくれるなら、別れるなんて言わないでくれよ。俺の傍にいてくれ」
「っう、ふ…うぅ…ごめん、なさい…」
「ここで謝ったらまたフラれてるみてーだろ?俺の傍にいてくれんのか、どうなんだよ」
「い、いさせて、ください…」
「…ありがとう」
「っう、うぅ〜…」
「泣きすぎ!どーすんだ明日!会社で知らないやつが入ってきたって思われるぞ!こんなまぶたパンパンな人いた!?ってヒソヒソ言われるぞ!」
「っふ、そんなに、腫れない、ですもん…ふふ」
「やーっと笑った、よしよし」
「ふふ…」
「…やっぱり可愛い顔してんのな」
「え?」
「なんでもない。目ー冷やすぞー」
「わ!!急に抱き上げないでくださいよ!!」
「疲れてるだろうから運んでやる」
「危ないです!!」
「お、信用してねーな。もっと高くしてやる」
「ぎゃ!!ちょっとちょっと!!もう!!」
「フッ」
「…なに笑ってるんですか」
「高い高いされてきゃあきゃあ騒いでて、子供みてーだなと思って」
「騒いでません!」
「騒いでるだろ!」
「…ふふっ」
「…フッ、」
「あはは、もう、二人とも子供みたいじゃないですか、ふふ」
「そうだ、な。だからちゃんと俺のことも面倒見てくれよ」
「…当たり前じゃないですか…本当に、私、三木さん、す、好きですもん」
「俺は愛してるなのにお前は好き、なんだ?」
「もう!意地悪言わないでください!」
「俺に愛はないの?」
「ありますっ…て…」
「ん、ありがと」
「…こっちがありがとう、ですよ」
「いーえ」
「ふふ…」
「…綺麗事、一生かけて本当だったって証明してやるから、覚悟しとけよ?」
「え?」
「なんでもねー。ほーら高い高い!」
「ぎゃ!!だから本当に危ないですって!!」
…end.