【Escapism】

□一口頂戴、なんて簡単に言わないで
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「なまえ」


「んん」


「何してんの」


「んんん」


「口に貼ってるの何?」


「んんんん」


「喋れないのか」


「ん」


「パック?」


「ん」


「へー。口だけのパックなんかあるんだ」


「プハァ!」


「生還した」


「貰ったんですよ、これ」


「そうなんだ。フフ」


「何で笑ってるんですか?」


「いや、なんかすごいデカい唇みたいで面白かったなと思って」


「たしかに!ふふ」


「でもたしかに普通のパックって口のところだけ空いてるもんな」


「そうなんですよね。唇用のパックがあるなんて、よく思い付いたもんです」


「たしかに」


「でも普通のパックより材質がなんかぷるぷるぺたぺたしてます」


「そうなの?」


「ほら」


「普通のパックをそんなに知らんけど、たしかにぺたぺたしてるわ」


「面白い」


「色々あるんだな」


「田所さんもやりますか?」


「え?」


「もう一枚あるので田所さんも唇パックしますか?」


「いや、やらない」


「遠慮せずに」


「してない」


「唇が潤ってる方がきっと良いことありますって」


「知らない」


「そんな突き放さずに」


「いらない」


「唇潤しましょうよ」


「俺の唇なんか別に潤ってても潤ってなくても平気だし」


「またまたそんなご謙遜を」


「してない」


「頑固ですねえ」


「俺がそのパック貼ってるのを見たいだけだろ」


「へっ!?」


「お見通しだよ」


「べっ、別にそんな、田所さんのちょっとユニークな唇パック姿が見たいなんてそんなそんな、思ってないですよお」


「いやもうそれ全部言ったじゃん」


「なんでバレるかなー!」


「分っかりやす」


「私の唇パック姿笑われたから、私も田所さんの唇パック姿見て癒されたい」


「笑いたいじゃないんだ」


「だって絶対可愛いですもん…」


「あんまり会話になってないけどまあいいや。本当にやらないから」


「うわああああん!!」


「うるさっ。なまえが使いなよ、せっかく貰ったんだから」


「うっ、うっ…」


「唇潤った?」


「うーん…あんまり分かんないです」


「そうなの?」


「どうなんでしょう?潤ってるような気はするんですけど…」


「ふうん?」


「触ってもよく分からないですね」


「へえ」


「でも良い匂いはします」


「匂いすんの?」


「なんだっけ…ミルクティー?の匂いって書いてありました」


「へえ…パックって匂いついてるんだ…」


「全部じゃないと思いますけどねえ」


「どれどれ」


「わ、ちょ、ち、近い、です…」


「んー?」


「田所さん…!」


「うん、たしかに甘い匂いする気がする」


「そうですか…」


「…」


「…もう心臓飛び出そうだから離れてください」


「…ねえ」


「はい…?」


「一口ちょうだい」


「え…?」


「ん」


「!!」


「…しっとりしてる、気がする?」


「もう!!ちょっと!!ただでさえ心臓飛び出そうなのになんで急にキスするんですか!!心臓飛び出てどっかいきました!!」


「マジか。あはは」


「笑い事じゃないです!!でも笑顔可愛いい!!」


「なまえが自分の唇潤ってるかどうか分からないって言うからさ、確かめてみようかと」


「ううううううう…」


「あはは」


「はー、もう…顔あっつい…」


「どれ」


「う」


「ん」


「!!」


「熱い気もする」


「そ!こ!は!顔であって!顔じゃないんです!」


「アッハッハ、どういうことだよ」


「熱いのは肌であって!唇では!ない!ん!で!す!」


「顔の一部じゃん。唇も熱かったけどね」


「もうキャパオーバーです…今日は田所さんを過剰摂取しすぎました…」


「俺は足りない。もう一口ちょうだい?」


「ダアアア!!素敵すぎる!!」


「もう何で発狂してんの、面白いからやめて」


「一口ちょうだいなんて簡単に言わないでください!私の魂が削られていきます!」


「えー」


「でも田所さんのその素敵ポイントで私の魂は復活していきます…!」


「意味わからんし」


「浄化…!」


「なんか浄化された」


「ハァー!きっともう寝た方が田所さんの健康は保たれるはずですね!そうしましょう!」


「恥ずかしいからって無理矢理はぐらかそうとしてるところ悪いけど、寝ないから」


「ええ!?」


「言ってるじゃん、もう一口ちょうだいって」


「う、ぐ…ぐ…だから…」


「…でもほんとは一口じゃ足りないから、全部ちょうだい?」


「ぜ、ぜんぶ…?どういうこと…」


「言わせますか」


「…」


「黙った」


「…に」


「ん?」


「…に、2度付け禁止やで!!」


「串カツ!?」


「もう田所さん素敵すぎて飲み込めない!」


「俺が飲み込めないわ」


…end.



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