小説

□wake up!!
1ページ/2ページ

ちゅんちゅんと小鳥の囀りと、さわさわという瑞々しい草木が早朝の蒼い風に揺れる音。
屋敷内にはうっすらとかかる微かな霧と、それに反射をして煌めく陽の光。
先程から当本丸の古株である平安生まれの天下五剣が屋敷の庭の散策をしているのもまた雅である。

「んー、やれやれ、」

厨ではぐつぐつ、とんとん、となんとも食欲の唆る香りと音に加えて何人かの話し声も聞こえてくる。

「最近一気に人数が増えたからって言ってもこの食べ物の量……」
「主以外全員男だしねえ」
「いや、主さんのアレ、女の子って言います? 」
「…………この間は俺より食べていたぞ……」

嘘だ、とでも言いたげに審神者の近侍を見やる厨当番の刀剣たち。
当本丸の審神者は、まだまだ成人とは程遠い幼い見た目の女の子。
なのだが、話口調はなんとも古風であり、刀剣たちのことは何でもかんでもお見通し。
その時点でただ者ではないとは思ってはいたが、まさかそれに加えて大食漢とは。

「そういえば主さん、もう起きてらっしゃいましたよ」

堀川が思い出したように言う。

「……はは、催促が来そうだから早く終わらせようか」
「アイツから貰う右フックは危ないからな……」

この間は余計なことを言った和泉守が手入れ部屋送りになったらしい。







よしできた、と広間の長机に料理を並べ終えて伸びをする光忠。
丁度その時に審神者が入ってくる。

「お早うお前たち」

にっこりと笑む審神者は、まだ彼女には大きめな薄い紫色の羽織をばさりと掛けて下はジャージのような軽い格好で。

「お早う主、嗚呼もう、またそんな適当な格好をして」

光忠は溜め息を吐きながら審神者へと近付いていく。

「すまないね光忠、だが此方も寝起きなんだ、勘弁してくれ」
「いつもいつもそう言うじゃない」
「そもそも着物は着づらい、面倒なのでね」
「嗚呼もう……」

ずり落ちていた羽織をかけ直してやる光忠に、審神者は苦笑をする。
隙を見て卵焼きを摘まむ審神者に、堀川と山姥切は溜め息を吐く。

「ん、旨いな今日も」
「行儀が悪いですよ主さん」
「腹が減った、早くしてくれ」

倒れる、にやりと冗談混じりで言う審神者。

「なんで、俺を見るんだ」
「おや、バレていたかい切国」

バレバレだと口を小さく尖らせる山姥切に審神者はからからと笑う。

「気付いているなら話が早いね」
「嫌な予感しかしないんだが…」

──馴れ合わないあの子を起こしておいで、私の可愛い近侍。

ひくりと頬がひきつるのが分かった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ