ひだまりの日々[完結]

□十三刻
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(さっきは騒いじゃって恥ずかしかったなぁ……でも土蜘蛛の好きな人気になるな。)

そんな事を思いながら今朝干した土蜘蛛の召し物を抱えて離れにある部屋へ向かう。

「親方様……いつもの覇気がありませんねぇ〜。どうかいたしましたか〜?」

部屋の中から土蜘蛛とえんらえんらの会話が聞こえて来た。

「あぁ。少しな……」

「そんな親方様に朗報ですよ〜。
名無しが親方様を気になりつつある様ですよ〜。私も親方様の思いが通じて嬉しいわぁ〜。」

「そっそうか!お前には何でも見通されるな。
……だが、その事なのだが……。」

土蜘蛛はえんらえんらに閻魔殿でのエンマ大王とのやり取りを話はじめた。

「そんな事をお話しされていたのですね〜。」

「名無しには名無しの時間が流れている。吾輩ひとりの想いを貫いて名無しの生涯を棒に振るようなことは許されないだろう。」

「それではこのまま想いを告げないのですか〜?」

「その方が名無しにとっても善かろう。告げたとて名無しを悩ませ困らせる事になる。」

「親方様はそれでよろしいのですか〜?」

「そうだな……これから先名無し以上に心揺さぶられる者が現れる気がしないが、名無しは限られた時間を生きねばならぬ。
名無しの一生を大事にしてやりたいのだ。」

「親方様……」

「名無しの残りの滞在中は友人として接する事にする。」

しんとするえんらえんら。

「なぁに、辛くなる事は覚悟のうえだ。数日後にはまたいつもの日々が続くだけになる。案ずるな。」

ははっと薄く笑う土蜘蛛の声にぎゅっと心臓を捕まれたようで呼吸が上手くできなくなった。

(そうだったんだ……土蜘蛛の好きな人。聞けてよかったな。
やっぱり土蜘蛛は優しい……少しくらい自分勝手にしたらいいのに。
でも、そんなところが大好きなんだ。
明日からは友達としてか……私も友達として接する事できるかな……好きって気持ちは今夜中に友達としてにすり替えなきゃ……。)

放心のままぎゅっと土蜘蛛の召し物を抱きしめながら自室へ向かってしまった。

夕食は今日は疲れたからとパスした。どんな顔をして土蜘蛛と会えばいいか解らなかった。

その晩、ぐるぐる思いは巡り胸のつっかえは大きくなるばかり。
好きは忘れなきゃと思う度に心は嫌だとごねて大粒の涙に変わっていった。
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