ひだまりの日々[完結]

□十二刻
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「これ全部土蜘蛛が書いたんだね。」

中庭の呉座の上に並べた書はゆうに100冊を越えていた。

「親方様は毎日の様に我が軍や平原の事を案じて記しているのだ。言わば日記だな。」

「ずっと部屋に籠って書いてたのはこれなんだ。」

「そうだろうな。」

「今はオロチやえんらえんらがいるけど、昔は土蜘蛛一人でこれ書いてたのかな。」

「私が親方様についたのはごく最近だ。えんらえんら殿はもうこの屋敷に居られたが、はじめから側にいたとは思えんからな。えんらえんら殿からも親方様と会った時にはこの書を書く習慣は毎日の様だったと聞いた事がある。」

「一人でかぁ。」

「昔は親方様も一妖怪として血生臭い日々を送っていたようだが、昔の事は何も仰らないのでな。私からも聞く事はないが。」

「あの土蜘蛛が?信じられない……」

「昔の親方様はその名を聞くと人々が震え上がるほど恐れられていたそうだ。親方様を退治しようと大勢押し寄せたそうだが敵わなかったとエンマ大王が言っていたぞ。」

「今の土蜘蛛を見ると想像つかないなぁ。」

「長い年月をかけて親方様も変わっていったのであろう……あっ!こら!名無し!勝手に書を開くんじゃない!」

古い書物は見るのが気が引けたけれど、手身近にあったまだ新しそうな書をパラパラと開いてみた。

「うーん。達筆なのと古文みたいな文面で読めない……。」

「名無しは学が無いな。」

「うっ、すみません。
……あっ。これ私の名前だよね?」

「そのようだな。」

見慣れない字面に飛び込んできた自分の名前に気がついた。

「昔の私の事だよね!なんて書いてあるんだろう。気になる〜!」

「……名無しは人、妖隔てなく接する良い娘と書かれている。
覗き見は良くない片付けるぞ。」

オロチは書を閉じた。

「本当に?昔、土蜘蛛とはあまり話した記憶無くて……なのにこっちに来てなかった時に気にしてくれたりとか、どうしてだろう。」

「親方様は周りをよく見ておられる。あぁ見えてもとてもお優しいのだ。
虫や珍妙な妖怪など人から嫌われる様な我々相手に笑顔で接する名無しに心打たれたのだろう。私だって蛇の妖だ。」

「そっか。
じゃぁ、私が大ガマと仲良くしてるのも口ではああだけど本当は温かく見守ってくれてるんだね。」

「それは……どうだろうか。」
(あれは本心が出ているような……)

「そういえばオロチは蛇で大ガマは蛙で同じ爬虫類系なのに何で本家にはつかなかったの?」

「理由は色々あるが、一番は大ガマ殿のテンションにはついていけないからだな。」

「……うん。……わかる気がする。」
(それはオロチには無理だ。)

笑いを堪えるのに必死で少し聞いたことを後悔した。

こうして日が傾くまで本棚整理は進んでいった。
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