かえるのお姫様

□4days
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「いらっしゃいませ。」

名無の一言で会話が始まった。

「どうも。」

「何かお探しですか?」

少し震える口調から名無が緊張していることが手に取るように解った。

「いや、ちょっくら見してくれよ。」

「は、はい。ごゆっくりどうぞ。何かありましたら仰ってください。」

そう言ってレジカウンターに戻った名無。
店内には大男と二人きり。

(何かやらかしたらすぐに殴り込んでやる……)

そう思いながら自分の居る店の入口に隠れ聞き耳を立てる大ガマ。
声の通る大男の会話は向かいの大やもりの店に居ても聞き取るのは容易だった。

暫くして名無に話しかける男。
大ガマにも緊張が走った。

「おう、ねぇちゃん。ちょっといいか?」

「はい。どう致しましたか?」

のしのしと名無に近づく男。

「今流行りのやつってのはどれだ?」

「どういった物をお探しでしょうか?」

「どういったって言われてもな……」

巨体に似合わずもじもじとする男は続けた。

「こういうやつはどうも……。
彼女がな、もうすぐ誕生日なんだよ。
この前ここの店の話ししてたからよ。来てみたんだよ。」

「そうでしたか。」

笑顔の名無。
頭を掻きながら彼女の話をする姿に名無は緊張が解けたようだったが、大ガマはまだ様子を伺っていた。

その後、店内をあれこれ二人で見て回り小さく可愛らしいネックレスを選んだようでレジに向かった。

「サプライズで自分の気になるお店の物をプレゼントされるなんて素敵ですね!私なら惚れ直しちゃいます。
彼女さんに喜んで貰えるよう可愛くラッピングさせていただきますね!」

「あぁ……よろしく頼むわ。」

男は言葉少なげだったが、そう名無に言われて逆に緊張をし、まんざらでも無さそうだった。

黙々とラッピングをする名無だったが話が途切れてしまった事に気付き男に話しかけた。

「そのタトゥーすごく綺麗ですね。」

(お前!そこに触れんのかよ!!)
ヒヤッとする大ガマは二人を覗き見た。

「これか!いいだろー?!
ねぇちゃんもいれたらどうだ!」

「いえ!私は……痛いの苦手なんですよ。
このお店に居るのにピアスも開けてない状態で……度胸がないんです。」

あははと苦笑する名無はカウンター下からリボンを取りだし結びながら話を続ける。

「それに比べてお客様は凄いですね。頭のもタトゥーですよね?」

「あぁ!そうだぜ!俺の一番気に入ってるやつだ!触ってもいいぜ!」

「本当ですか!」

そう言って手を伸ばす名無。

(あいつ今、度胸ねぇって言ったよな……)

男は少し屈み名無に頭を触らせた。

「わぁ。龍ですね!なんだか御利益がありそうです!ありがとうございます!」

「どぉってことねぇよ!髪の毛生やすと意味無くなる代物だけどなぁ!」

そうタトゥーを誉められ男は上機嫌でがははと笑った。

その後、笑いながら話を続けラッピングも終わり今度は彼女さんといらしてくださいと挨拶をし、男は笑顔で店を後にした。

大ガマも終始手に汗を握っていたが、レジ横の定位置に戻りほっとした。


客がいなくなった店内で、今度は名無は今日入荷をした商品の確認をしていた。

大きな段ボールに入った新しいネックレスやらリングやらを見てキラキラと目を輝かせ、可愛い可愛いと口から漏らしながら鏡の前でにこにことし、取っ替えひっかえしている名無の様子を見て大ガマは一人くっくと笑った。

(あいつ楽しそうだなぁ。)

自分に向けられていない笑顔だったが、見るだけでほかほかとするのが解るのだった。
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