かえるのお姫様
□11days
2ページ/3ページ
雨は降ったり止んだりを繰り返し、通りに出て名無に話しかけることができなくなった大ガマはレジの定位置でぼーっとしていた。
すると名無のいる店に若い男が駆け込んできた。
傘を持たない様子をみると急な雨に雨宿りに寄った様だった。
軒先に立つ男に気付き名無は話しかけた。
雨音で会話は大ガマには聞こえないものの、話しかけた名無に向けて頭を下げて笑う男は雨宿りさせて欲しいと言っているように見えた。
一度、店から姿を消した名無は小走りにタオルを持ってきて男に渡し、男は再び頭を下げてタオルを受け取った。
(名無のやつ。客でもないやつに愛想よくすんなよ……)
大ガマはムッとしていたが、二人はそのまま軒先で話を続け名無は笑顔だった。
暫く話した後、名無は店内の業務に戻ったようで姿が見えなくなるも雨が降り続く中、男は軒先に居続け名無に話しかけているようで笑いながら話をしていた。
(早く帰れよ!名無も仕事中にへらへら男と喋るんじゃねぇよ!)
いつもの自分との会話はさて置き、ふつふつと妬き餅を焼くのだった。
そのうち、なかなか止まない雨に困った男は軒先に置かれた売り物の傘を一本持ちレジへ向かった。
男には似合わないファンシーな傘。
会計を終えた名無は困り顔だったが笑って頭を下げ店先まで出てきた。
男は帰り際、タオルを返さず名無と少しごたごたしたが、何やらお礼を言った様で足早に店を出たのだった。
(やっと帰ったか……)
胸のざわめきが収まらない大ガマは帰り際の名無を捕まえ駅まで送ることを申し出た。
「そういや夕方過ぎに来た男、タオル持って帰ったんだな。」
「あっ、見てたんですね。
そうなんです、洗濯して返すって言ってくれて。
断ったんですけどね……ボロボロで返ってきちゃうかもしれないので。」
そう言ってくすくすと笑った。
「あっ、あれは本当にごめん!」
「冗談ですよ。気にしてませんから。」
そう言って楽しそうにする名無と話をすると、先ほどまでざわついていた胸がスッと軽くなり暖かくなった。
その日を境に男は店へ通う様になり、大ガマの憂鬱な日々が続いて行った。
翌日、早速男は店を訪ねタオルを返すと言ってカバンをかき回した。
が、タオルは出て来ず忘れてしまったと言って名無と笑い合っていた。
(あの野郎、ぜってぇ名無に会いに来る口実に忘れたな……わざとらしい。名無も笑ってんじゃねぇ!)
男の一挙一動にイライラとして名無の反応も気になる。
その反動で名無を独占したい気持ちが強まり、休憩時間は必ず一緒に過ごし、帰りも送る事にした。
そのまた翌日、名無は休みだったが男は姿を表し、店内を見回すも
男はそのまま帰って行った。
(名無は休みだぜ!残念だったな!)
その日は1日清々した気分になる大ガマ。
次の名無の出勤日、男は洗濯したであろうタオルを片手に現れ、名無に渡してお礼を言った。
名無はタオルを受け取り、男は店を去った。
(やっとアイツが来なくなるのか!あー気分がいいぜ!)
清々しい気分でいた大ガマだったが、そんな気分は名無の上がり時間の夕方までだった。